ベイジでは、サイトの制作過程でアイディエーションを行うことがある。関係者やペルソナに近い人々に集まってもらい、コンテンツなどについてアイデアを集める会だ。
アイディエーションは「やること」が目的ではない。ここでどれだけ多面的な情報を集められるかがその後の戦略や制作の質に大きくかかわってくる。
よいサイト作りのヒントをなるべく多く得るために、ファシリテーションで意識していることを紹介したい。
オフラインでワークショップをするときは、レポートパッドとペンを持ってとにかく場を歩き回り、参加者の様子をよく観察するようにしている。
参加者の声、表情、書いている様子から得られる情報は非常に多い。ペンの動かす速度ひとつからすら、その人の気持ちや状態はある程度類推できる。
直接自分の目や耳で場の空気を確かめると、アイデアがどのような文脈で、どのような気持ちや考えから生まれたものなのか、付箋に落とし込まれた以上の情報が得られる。観察したことはすべて、雑でもいいからレポートパッドにメモをしておく。付箋のアイデアと観察を重ねると、インサイトのインスピレーションにぐっと奥行きが生まれる。
また歩き回っていると、参加者側の様子を把握するだけでなく、運営側の様子も把握できる。参加者が複数のグループに分かれ、各グループの島に個別のファシリテーターがいる場合、
「この島とあの島の個別ファシリテーターは入れ替えたほうが議論が活性化するかも」
「〇〇さんはこういう視点からの声掛けが得意そうだから、次の回ではこんなふうに場を作ってもらうと良さそう」
などの発見がある。その時々の状況に応じて運営の体制を柔軟に(不自然さを感じさせない程度に)コントロールすると、より多くの収穫につながることもある。
アイデアを集めるのは、その先にある「良質なサイトを作る」というゴールを達成するためだ。
見方を変えれば、そのゴールを達成するために必要なインサイトが十分に得られれば、「設問に対してアイデアを出してもらうこと」自体にこだわる必要はない。アイディエーションをきっかけに生まれた雑談に深いインサイトを得るヒントが宿っていることも往々にしてある。
事前に設問や全体の設計を十分練ることは大切だが、設問にこだわりすぎると、得られるはずのヒントを得られなくなる。もし多くの参加者の手が止まっていたとしたら、焦らずに、手が止まっている理由を聞いてみるとよい。
設問の問い方がよくなかったのであればその場で質問の仕方を変えればよいし、「こんなことは考えたこともなかった」という理由なのであれば、その事実が重要な示唆になるかもしれない。
参加者の方々は忙しい業務の合間を縫って集まってくださるのだから、せっかくなら「参加してみてよかった」と思ってもらえたら嬉しい。だからわたしは、参加いただいたことへの感謝だけでなく、今日の時間の意義や、いただいたアイデアがどのように未来につながるかを伝えるようにしている。
たとえば採用サイトのコンテンツのアイディエーションであれば、
「いただいたアイデアは、リニューアルするサイトのコンテンツの材料にさせていただきます。今日のアイディエーションは、皆さんがこれから一緒に働きたいと思えるような仲間をこの会社に迎え入れるにあたって、非常に重要な時間でした。サイトの公開は〇年〇月頃の予定です。公開されたら、今日皆さんが話された内容がどんなかたちに昇華されたか、ぜひご覧いただけると嬉しいです」
と伝える。
大袈裟に聞こえるかもしれないが、アイディエーションの結果を上手に活かすことは、関係者や参加者への何よりの感謝とリスペクトだと思う。歩き回って得られるだけのものを吸収し、いただいたアイデアをどう活用するのかを伝えるのは、自分自身の気持ちをあらためて引き締め直すためでもある。
よいアイディエーションはよい未来につながる、と信じている。というよりも、よいアイディエーションをよい未来につなげることが「価値を出すこと」だと思う。「すべてはよいサイト作りのため」を忘れずに、これからもアイディエーションをうまく活用したい。