個人の視点と組織の視点をはき違えてはならない理由

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代表取締役 枌谷 力

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個人と組織では優先順位が異なる。だからその視点を変えると、まったく異なる正論になってしまう。こうやって文章に起こすと当たり前のことなのだが、仕事の中ではこれを忘れ、自分の都合のいいように解釈して両者がぶつかるケースが多々見受けられる。

例えば「問題指摘型の発想はダメだ、問題解決型の発想であれ」みたいなことは、仕事の現場でよく言われることである。

問題を他人事のように捉えず自分事にし、どのようにすれば問題が解決できるのかというところまで考えを及ぼすクセが付いている人は、一つのことから多くを学ぶので、成長する確率も高いだろう。

個人の視点、言い換えるなら自己啓発の視点でいえば、これは確かに正論ではある。しかし、組織の視点、つまり会社やチーム運営の視点になると、この考えは正論ではない。

問題があるのであれば、解決策の有無に関わらず、会社やチームは速やかにそのことを把握しなければならない。それが緊急性が高い問題であれば、問題を見つけた人だけに任せず、責任者や関係者がその対応を考えるべきである。

「対案がないなら意見を言うな」というようなことを強いる会社は、組織としての問題解決能力が低くなるだろう。組織の視点でいえば、「問題があれば、対案や解決策がなくても速やかに報告しなさい」というのが正論なのである。

このように、個人の視点と組織の視点では正論の内容がまったく異なってくる。しかし、そのことを意識せず、個人や組織が自分たちに都合のいい理屈(自分が楽ができる理屈)ばかりを選択していると、状況に対して適切な判断ができなかったり、せっかくの体験を台無しにしてしまいかねない。

こういう話は様々な立場でも共通していえる話である。例えば国家レベルのテーマでもまったく同じことがいえる。

国民一人一人は、自分を磨き、能力をあげ、社会生活の中で困難なことがあってもへこたれず、長期的に成果を出し、安定した生活を自分の手で勝ち取っていく力をつけるべきであろう。

一方で国家は、そういった競争から滑り落ちてしまう人のため、受け皿となるセーフティネットを用意しなければならない。

この視点が逆になってしまうと、国が何とかしてくれると社会制度任せにして自分磨きを怠り、うまくいかないことがあれば国や社会の不満ばかり言って自分を変えることに結び付けず、成長しない国民ばかりになってしまう。

一方で、国民の前向きな意欲や自助努力にばかり依存し、そこからこぼれ落ちた人は努力不足だ、といったような考え方で国造りをすると、失業率や犯罪率が増加し、社会情勢が不安定な国になってしまうだろう。

このように物事には二つ以上の視点があり、視点が変われば正論が変わる。その視点を変えれば、ある事象に対して、自分が悪いと捉えることができるし、相手や環境が悪いと捉えることもできる。

しかし、例えそれが客観的事実に基づくことであったとしても、自分の成長の糧とできるのは自責型発想しかない。

自分が部下なら、組織や上司の視点を理解しながらも、最終的には部下の視点、社員の視点、自己啓発の視点で物事をとらえ、自分の手でできることに結び付けないといけない。

自分が先輩や上司や経営者なら、個人の問題は把握しつつも、上司やチーム、会社の視点から問題を捉えて、自分の立場で実行できる改善策を打たないといえない。

このような視点の違いを意識したうえで、自責発想でとらえ、自分がそこから得られることをいつも考えていると、困難なことや、一見理不尽なこと、自分の手に負えないと思えるようなことも、貴重な体験に変えることができるだろう。

そして個人も組織も、お互いが問題を他人事ではなく自分事と捉え、自分から歩み寄る姿勢を持っていれば、物事はおのずと良い方向に変わるのではないだろうか。

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