最近社内ではマイクロマネジメントの話が出ることがしばしばあるが、今後より大きな組織を作るうえでも重要なテーマになってくるだろう。
昨年の話題作となったGoogle人事担当上級副社長ラズロ・ボックが執筆した『WORK RULES』の中にも、管理者はマイクロマネジメントをしてはいけない、といった記述が何度も登場する。それに限らず、あらゆるビジネスの現場で「マイクロマネジメント」というのは否定的なニュアンスで使われていることが多いのではないかと思う。
脱マイクロマネジメントを目指すうえで、ポイントは3つある。
1つ目は当然ながら、管理者つまり上司自身の意識変革である。マイクロマネジメントを行うと、時間的に苦しくなるにも関わらず上司がそれにいそしんでしまうのは「そうした方が楽になる」という裏の心があるからであろう。
マイクロマネジメントをすれば、細かいところまで目を行き届かせることができるので、漏れやミスの見逃しなどの恐怖が和らぐ。部下がミスを発生させることによるストレスを事前に回避することができるようになる。また、細かいところまで確認するから、自信をもって指示を出せるようになるし、部下の誤りにも気づくことができるようになる。
つまるところ、マイクロマネジメントとは、不安な気持ちの軽減に時間をあてがう行為ということである。
しかしこれをやり続ければ、当然上司の時間はどんどん奪われ、チームの生産性はどんどん悪化していく。本来一人でできることを二人で関わっていくのだから、当然そうなってしまうだろう。その上司の下で働く部下は、いつまでたっても一人で判断できるようにならず、細かなことまで上司に確認しなければ何もできないままでいてしまう。何かがうまくいっても、それは上司のおかげであり、自身が生み出した成功体験としては喜べなくなる。
上司となるものは、自らの不安に押し流されたり、あるいは完璧主義に捕らわれたりすることを意識的にやめていかなければならない。自分自身の「好きなスタイル」「こだわりのスタイル」ではなく、部下の判断に任せることを覚え、チーム全体の生産性と品質の観点からもっともバランスのいい関わり方、「あるべきスタイル」というのをいつも見極めようと努力し続けなくてはならない。
2つ目は、脱マイクロマネジメントには部下の協力も不可欠という点である。
管理者が細かくチェックしてくれないと自分ではミスを減らせない、管理者が細かく方向性を示してくれないと自分では考えられない、といった部下を抱えていると、管理者はいつまでたってもマイクロマネジメントから脱することはできないだろう。(もちろんこれは鶏と卵の関係であるとは思うが)
また世の中には「現場を細かく見てくれる上司がいい上司」という価値観を持っている人もいるが、程度問題ではあれど、基本的に「上司がいないと困る」というようなスタンスの部下を抱えていると、その上司はマイクロマネジメントをしなければならなくなる。時にはマイクロマネジメントをする上司とそれを受ける部下で信頼関係が出来上がっていることもあるが、これはある意味チームに対する共犯関係ともいえる。なぜなら、結果的に生産性が下がり、周囲の人が忙しくなり、利益を圧迫していては、元も子もないからである。
このように考えていくと、部下の側にも「上司はマイクロマネジメントをすべきではない」という基本的な考え方が必要であり、上司にマイクロマネジメントをさせない働き方を、部下自身もしっかりと考えていく必要があるだろう。
3つ目は、バランスを常に考え続けることである。
脱マイクロマネジメントで陥るのは、部下を放置してしまうことである。物事を極端にしか考えられないとこのようなことをしてしまいがちだが、放置は「マネジメントの放棄」であって、「マイクロマネジメントをしない」とイコールではない。
あくまで「マイクロ=細かな」マネジメントをしないというだけであり、「マクロ=大きな」マネジメントはしていかなければならない。つまり、細かなことは部下に任せながら、品質の根幹となりうる要所のチェックは怠らない、あるいは部下の能力を高めるような指示や管理は随所で行っていくというのが、脱マイクロマネジメントの本質であり、本来の正しいマネジメントということである。
このバランスには、当然部下の能力の見極めも含まれる。新卒で入社した社員に、細かなことまで完全に任せるのは不可能であり、仕事が成り立たなくなる恐れもある。デザインのようにディテールの精度が大事になる仕事でいきなり上司が手を引いては、部下が正しく育たなくなる可能性もある。また緊急事態などで上司が手を動かすことで事態の収拾を素早く図れるのであれば、そうすべきである。
バランスを見るというのは、部下の能力をきちんと見極めたうえで、可能な範囲で多くのことを任せていく(挑戦させていく)、しかし状況によってはマイクロマネジメントを行うという、意図的な選択をすることである。
マネジメントに正解はない。A/Bテストのように2つを比べるようなことができないケースも多い。だからこそ、最初に思いついた自分のやり方を「これが正しい」と思いこむようでは、バランスを見極めた本来の脱マイクロマネジメントは実現できないだろう。大事なのは「もっといい方法があったのでは」「他の考え方があるのでは」といつも自分の判断を疑いながら、ベストと思える方法を意識的に選択していくことである。
このような3つの前提を押さえたうえで、脱マイクロマネジメント、つまりは生産性が高く部下が育つ組織作りというものを、今年は少し意識していきたいと思う。