ベイジに入社する前、予備校で講師として小論文やエッセイの書き方を教えていた。入試を突破する文章を書くには、ロジカルシンキングをベースとした文章の作法を身につける必要がある。
初め、高校生や中学生相手にこれを教えるのにはかなり苦戦した。そもそもロジカルとはどういうことかを正確に理解してもらうのに時間がかかる。そして理解できたとしても、少し抽象度を上げたテーマになるとすぐに破綻が起こるのだ。
そんな経験を踏まえて、ロジカルシンキングを身につけるのに効果的だった練習方法を紹介したい。
その年の一番最初の授業で次のルールを設けた。
「今からあなたたちが喋れるのは二文のみ」
「これから私が投げかける質問に対して、一言目で意見を自由に言っていい」
「二言目は必ず『なぜなら』で始まる内容だけを言うこと」
「途中で『なぜなら』にならないと気づいたら、最後まで言い終えてから、どうしたら『なぜなら』につながったかを考えてノートに書いて持ってくること」
「これを一年間毎週やる」
型を使いこなせるようになるまでは型以外を認めないやり方は、数さえこなせば絶対に誰でも上達するという点において適切だと思う。
まずは型を身に沁み込ませるところから徹底するのが一番の近道。
具体的かつ身近な話題のほうが自分事に引き付けて考えやすく、「なぜなら」以降を思いつきやすい。なので、ロジカルシンキングを練習し始めた頃は、とにかく具体的で小さいことで練習するのがオススメ。
例えば、上記のクラスで投げかけた質問は、最初の頃は下記のようなものばかりだった。
「今日の昼ごはんは何にする?」
「明日は半袖と長袖、どっちを着る?」
これらの質問は、単純だからあまり深く考えずとも答えが出る。(例えば、「昼ごはんはうどんが食べたい。なぜなら昨日テレビでうどん特集を見ておいしそうだと思ったから」とか)
とにかく「なぜなら」を正確に話すことに慣れるために、具体的なテーマを使う。
少し慣れてきたら、下記のような考えを組み立てる作業を要する問いへ徐々に移行していく。
「スカートの長さを校則で制限するのはアリ?ナシ?」
「部活の全員強制参加に賛成?反対?」
ここで「根拠を考える」「根拠が主張に対して整合性を保っているかを自分でジャッジできるようになる」という訓練を積む。このときも「身近さ」は意識し、自分事化して考えやすい内容に絞って練習するとやりやすい。
Step 2に慣れてきたら、自分の意見とは反対の意見を持つ人を想定して、自分の意見に自分でツッコミを入れる練習をする。
例えば、以下のような感じ。
【自分の主張】
スカートの長さは校則で制限すべきではない。なぜなら、自分の「なりたい姿」を考えて実行する力を奪ってしまうからだ。【反対派の意見】
「自分の『なりたい姿』を考えて実行する力」を育てるのは、スカートの長さでないといけないのだろうか? 進路や時間の使い方など、他のことでも鍛えられるのではないか。
もちろん、最初からここまで整理された意見が出てくることはほぼないが、大事なのは「なぜなら」以降にある穴に自分で気づき、それを言語化すること。そして、反対派の指摘に対して、どのような説明をすれば(=どのような情報があれば)反論を封じ、彼らを納得させられるのかを考え言語化すること。
これを反復していると、自然と「なぜなら」以降の説明の過程で穴の少ない説明ができるようになる。
ロジカルシンキング入門編として、毎日30分まずはStep 1を、Step 1に慣れてきたらStep 2を、さらに慣れたらStep 3を段階的に練習するだけでも、1ヶ月で目に見える変化が出てくる。論理的に話を組み立てることに苦手意識を持っている人は、試してみてほしい。