上司や先輩(以下「上司」)からフィードバックを受けた時に、その内容に納得がいかなかったり「実際はこういうこともあったからそれは当てはまらないのに。ずれているな」と感じる状況はあると思う。
しかしそこで「だから表面的には従いながら受け流しておこう」とか「あの人の言っていることは当てにならない」と考えてしまうのはもったいない。
まず「上司からのフィードバック」の性質や前提を理解しておくことが大事だと思う。
当然ながら、上司は各メンバーの細かな状況を正確に把握しているわけではない。本人も様々な業務を行っているし、面倒を見るメンバーの数も多いので、そんなことは現実的には不可能だ。そして専属のコーチでもない。
なので当然、実際起きていることに当てはまらないことを言うこともあるし、ずれているようなことを言うこともある。
ここで理解しておくべきは、渡されているフィードバックの性質はそもそも「詳細は把握できていないのでずれていることもあるかもしれないが、私が見えている範囲での助言としてはこう考える。この中で役立つものがあれば活用してほしい」というものだ。
受け手は、この中から自分にとって役に立つものを抽出していけばいいわけだ。なのでここで受け手が「いや、言っていることが間違っている」という議論を始めてしまうのは、相手のフィードバックの意図を汲み取れていないと言えると思う。
そもそもそこで上司の認識を正したところで、お互い何も得ることがなく、無駄に時間を浪費するだけだ。
もう一つ大事なのは自己否定の視点だ。上記のような「実際のプロジェクトの状況に合わない」みたいな内容ではなくて、単純に「この人が言っていることは理屈が通っていないように感じる」という時がある。
このような時に相手に反発してしまったり、ただフィードバックを受け流してしまう人もいると思う。しかしこういう時こそ、今の自分に対する自己否定の視点を持ち、素直にフィードバックを受け止めることが大事だ。
まず大事な前提を覚えておく必要がある。
つまり「この人の言っていることは間違っている」と考えているその自分の価値観こそが、自分を今の状況に押しとどめている原因かもしれないということを考慮する必要がある。
それを確かめるためにも、まずは言われたことを黙ってやってみる必要がある。そのうえで「やっぱりこの理屈は違うな」と思うことがあれば、元のやり方に戻せばいい。
これに限らず、よっぽど自分の現状に対して素晴らしいと思えている状況でもなければ、今の自分の考えや価値観こそが、今の自分をどこかの限界にとどめていると考え、自分の中の変わる必要があるところを模索し、その変化のヒントを他人の中から探す姿勢は大事だと思う。
最後に、言われたことは素直に受け止めないと人から見捨てられる。これは感情的な問題もあるし、実務的な問題もある。
感情的な問題については、上司だって人間なので、あまりにも「あー言えばこう言う」人にはそのうち丁寧に接することをあきらめる。それは正しくないと思う人もいるかもしれないし、実際に理想的な行動ではないこともあるかもしれない。
しかしそんなことを言っても仕方がなく、見捨てられた時にはただその事実に襲われるだけだ。他者の感情的な行動というのも、現実世界の「どうにかするもの」の一つとして適切に向き合うべきだと思う。
相手も自分のリソースを割いてフィードバックをしているのでその負荷は決して軽いものではない。そうした中でもフィードバックをもらい続けるためには、フィードバックを受ける側である自分が「フィードバックしてよかった」と相手に思ってもらえるような行動をするべきだし、それが自分の成長のためになる。
実務的な問題というのは、単純にフィードバックに対して「それは正しくない」という反論をすることは多くの場面で無意味であり、しかもフィードバックが受け止められないのであれば、フィードバックをすること自体無意味になってしまう。
なので単純にその人に対するフィードバックという業務が「やる意味のない業務」にカテゴライズされ、やる意味のない業務は廃止されるという話だ。
「議論をすることで正しい認識が社内に広がるかも、より質の高い理屈に昇華されるかも」という見方もあるかもしれないが、ここで書いているような場面における反発由来の議論が有意義なものになる可能性は低いし、多少は有意義なものになれどROIの観点で見合わないものばかりだろう。
上司からのフィードバックは、ときに的外れに感じることもあるかもしれない。しかし、それをどう受け止めるかで自分の成長スピードは大きく変わってくる。
フィードバックの本質を理解し、「選べる助言」として捉えること。時には自分の価値観を一度脇に置き、素直に試してみる勇気を持つこと。これらの姿勢が、周囲からの学びを最大化する鍵となる。
フィードバックを受け入れないことには感情面でも実務面でも代償が伴うが、逆に言えば、適切に受け止め実践することで、周囲からの信頼を得ながら自分自身も成長できるという好循環を生み出せる。
結局のところ、自分の限界を決めているのは他でもない自分自身の考え方かもしれない。その限界を超えるヒントは、身の回りのフィードバックの中に隠れているのではないだろうか。