以前から言われ続けてることだが、クリエイターのディレクター化が徐々に進行しているように思う。
採用サイト制作の一環で、様々な企業の様々な職種の募集要項に目を通す機会があるが、デザイナーやエンジニア、あるいはライターのような、いわゆるクリエイティブ職にディレクション力や折衝力を求めているケースは多い。「ディレクションはある程度任せたい」という声もよく聞く。
こうした、クリエイターにディレクション能力を求める傾向は、当社も同様である。
社内でデザイナーの活躍を耳にすることも多いが、その理由の一つに、ディレクション領域も積極的に巻き取ってくれることが挙げられていたりする。
また、当社のライターは一般的なライターと職務内容が異なるという話もよく聞くが、最も顕著なのは、ライターにもディレクター的な動きを求める点だろう。
「文章」というのは顧客理解やコミュニケーションの質の影響をもろに受けるもので、ディレクション的領域を一切しない分業化された「厳密な意味合いのライター」では、活躍領域は必然的にかなり狭くなる。よほど天才的な文章を書けない限りは、評価もされにくいだろう。
これも以前からよく聞く話だが、ディレクション専業で制作に出さない「ウェブディレクター」という職能は、欧米では存在しない。制作領域のディレクションはデザイナーやエンジニアの職務領域で、全体を管理するPMやプロデューサーと一緒に動くのが一般的だそうだ。(私は海外勤務経験がないので又聞きの話だが)
欧米の方が優れているという発想はまったくないが、「モノづくり」とはそもそもは全部自分で管理するところから始まっているし、管理する領域が広いからアウトプットに必要な情報の理解が深まり、アウトプットのコントロール力も高まる。
アウトプットの質にこだわるなら関係者とのコミュニケーションにも深入りする=ディレクションも自分でやるというのは、ある種合理的な考えである。
一方で、このあたりを分業しようというのもまた、ある種の合理的な判断である。クリエイター=マネジメントが苦手という前提に立ち、別でディレクターを立てて進めた方がよいだろうという判断から、日本では今のようなウェブディレクターを置く体制が一般化したのだろう。
あるいは日本においては、発注先であるクライアントがコミュニケーションの品質を求める傾向が強く、それゆえにクリエイターではなくディレクターを立てた方がうまく行くケースが多い、といった事例の積み重ねから、そうなったのかもしれない。
しかし、こうしたディレクションの切り離しによって、多くのクリエイターたちは、マネジメントやコミュニーケーションが苦手なままキャリアを歩んできた。
その結果、30代後半や40代になっても基本的なマネジメントやコミュニケーションが身につかないまま、さらにいえば「クリエイターだから仕方ない」という諦めから改善する意思も希薄なまま、年とキャリアを重ね、社内で居場所がなくなり、フリーランスとしてもやっていけない、40代にしてジョブホッピングを開始する、みたいなケースもしばしば見かける。
しかし冒頭のように、その流れが変わりつつある。クリエイターにも一定のマネジメント力とコミュニケーション力、つまりディレクター的職務を求める傾向が強くなっている。これまでのクリエイターとはまた違ったスキルセットになっていくことが予想される。
私は基本的にウェブ領域で働いてきた人間なので、いったんは話をウェブディレクターに絞る。
多数の例外はある前提として、誤解を恐れずに厳しい物言いをすると、ウェブディレクターという職務には、学習意欲や、一つの領域を極める覚悟がさほど高くない人たちが混ざりがちだとも感じている。
ウェブやモノづくりには携わりたい。でもデザインやプログラミングの勉強は深くはしたくないし、やりきる自信がない。コンサルと名乗るほど、ビジネスを語れるようになるまでは勉強する自信も熱意も行動力もない。
でも、自分のコミュニケーション力で、コミュニケーションが苦手なクリエイターのハブになることで、モノづくりには携われるかもしれない。
といったあたりが、職業選択の動機になりやすい。
しかし実際のウェブディレクターの仕事は、そんな生温い仕事ではない。業務理解やクリエイティブの理解、技術の理解は幅広く求められるし、しかもそれぞれ浅ければ浅いほど貢献しにくく、深ければ深いほど貢献しやすくなるという、クリエイター的性質も含む。
ウェブディレクターだからコミュニケーションだけできればいいかというとそんなことはない。PMをはじめとするプロジェクトマネジメントの専門知識の獲得は不可欠であり、それを知っているほどに「武器」が増える。そういう勉強をしない人は、同じような失敗をずっと繰り返し続ける。
その上で、自分に課せられた職務に振り回されたり視野狭窄に陥ったりしがちなコンサルタントやクリエイターやクライアントとコミュニケーションをとっていく。
プロジェクトの指揮者として全体の進行を司り、スムーズに進めることではなく目標を高く達成するために柔軟に進め方を組み替え、想定されるリスクをヘッジし、皆が見えないグレー領域を察知して先回りしたり、第三者的な立場でコメントを発して、思考を促したりする。
もちろん、タスクをきちんと管理し、決められた期日までにそれを遂行する、間に合わないなら先手先手で関係者に共有する、というタスクマネジメント、タイムマネジメントも、他職種以上に求められる。だらしない人、雑な人、怠惰な人には務まらない仕事である。
決して、「勉強意欲はないがコミュニケーションはまあまあできる」という人ができる仕事ではない。
プロジェクト推進に関する勉強も必要だし、まあまあレベルではないコミュニケーション力も必要だし、一方で杓子定規ではない思考の柔軟性や、プロジェクトを自分ごと化するオーナーシップと、率先して引っ張ろうとするリーダーシップが必要な仕事である。
さらにいえば、これらの職務定義が会社によって大きく異なるため、ウェブディレクターとして渡り歩いていくのは、かなり幅広いスキルを持ち合わせていなければいけない。
こう書いてても大変な仕事であり、リスペクトされるべき崇高な仕事であると思う。
このウェブディレクターという仕事は、20代が仕事をするには最適な仕事ではないかと私は思う。
営業職と似てて、ビジネスの基本的なエッセンスが散りばめられており、ウェブディレクターの仕事に根気よく向き合った人は、いろいろな仕事に共通する汎用的なスキルが身に付くので、30代以降の多くの分野での活躍が期待できる。
実際、過去に出会って「この人はデキるウェブディレクターさんだな」と私が思った方は、例外なくウェブディレクターではない職業にジョブチェンジしている。
顧客に向き合う質を高めたい人は、ウェブコンサルタントやUXデザイナーになるし、マネジメントという側面をもっと高めたい人は、マネージャーや組織やチームを束ねる仕事に就いたり、任命されたりしている。
以前出会ったあるウェブ制作会社のウェブディレクターさんは、今は同社の執行役員になっている。某社の鬼ディレクターだった某氏は、その後コーポレート部門に転籍し、より幅広い範囲を統括する立場になっていた。
このように、ウェブディレクターという仕事である程度の成果・評価が得られると、基本的にはより高いポジションや深いポジション(=難しいポジション)に移っていくものである。なぜなら、ディレクションという仕事は汎用性が高く、本質的なビジネススキルに支えられてる仕事だからである。
一方で、30代以降もずっとウェブディレクターを名乗り続けている人もいる。これも多数の例外があるのは分かった上で誤解を恐れずに言えば、「あまり仕事がデキない人が多い」という印象を持っている。
特に30代後半までほぼウェブディレクターしか経験しておらず、また次もウェブディレクターとして転職しようとしてる人は、よほど強いこだわりがある人を除くと、厳しいことがあると思ったりもする。
なぜ、30代以降も、こだわりなくずっとウェブディレクターを名乗り続けている人は厳しいのか。それは、「ウェブディレクター以外の仕事に就けない人」が一定数含まれており、そしてそれは事実上「ウェブディレクターの仕事すらも十分にできていない」ということを意味しているからだと思う。
受け身で、リーダーシップに欠け、学習意欲も学習習慣もない。周囲のクリエイターが仕事を進めてくれるので、なんとなくそのチームに乗っかって、ふわふわとしたコミュニケーション能力で、なんとなくみんなに相槌を打って、なんとなくエクセルやスプレッドシートやWBSをいじって決められたタスクをこなしてるだけでも、周りがしっかりしてるとプロジェクトは進む。
プロジェクトに問題が起きても、クライアントや成果物の品質など、問題がディレクションでないように見えることも多い。
しかしながら、ウェブディレクター自身にはプロジェクトマネジメントやリーダーシップのありように美学やこだわりもなく、自らは学ぶ意欲もなく、自分の仕事を抜本的に改善する視点もなく、ゆるっと貢献し、ふわっと仕事をこなし、なんとなくキャリアを重ねてる。でも、他の仕事はできない。
30代以降、ウェブディレクターとして3年以上働いて、「他にどんな仕事で高いパフォーマンスを出せますか?」と聞いて、他の仕事はちょっと、というウェブディレクターさんは、大抵このパターンではないかと思う。
だが、そんなゆるふわなキャリア進行では、やがて苦難が訪れるように思えてならない。年齢で見られ方が変わるというのもあるし、冒頭のようにクリエイターたちがどんどんディレクター化してくる、という流れもある。
必ずそういう道があるとは断言できないが、こうしたリスクがあるのがウェブディレクターという仕事ではないかと思う。
それにたいして「いや、私はそうは思わない、私はこんな風に圧倒的に貢献してるじゃないか!」といって同じように思う人たちを黙らせる気概を持っている人は、きっと大丈夫である。問題は、そんな気概も反骨心もなく、ウェブディレクターとしてのキャリアを惰性でゆるゆる積み重ねてる人たちである。老婆心ながら、そのままでいるとキャリアの未来は暗いのではないか、と思ったりするわけである。
ここまでウェブディレクターの定義をはっきりさせずにボヤかしたまま話を進めてきたが、実際のところ、ウェブディレクターの仕事は会社によってかなりブレがある。
顧客折衝や進行管理、品質管理はもとより、リサーチや分析、企画提案からワイヤーフレーム設計、時にはコピーライティングまで求める会社から、純粋にクライアントとクリエイターの調整役だけを求めている会社まで、千差万別である。
そのため、ウェブディレクターの仕事を一概には決められないのだが、ウェブディレクターと卑近な職種としては、コンサルタント職やプロデューサー職があるように思う。では、ウェブディレクターとして経験を積むと、コンサルタントやプロデューサーになれるかというと、必ずしもそうでもない。
ある会社では、ウェブディレクターのままではクライアントやクリエイターの御用聞き体質が抜けないため、ウェブディレクターをコンサルタントに移行させる取り組みをした。しかし、1年以上取り組んだ結果、「無理だ」という結論になったそうである。その理由を聞いたところ、「そもそも物事の思考方法や仕事のスタンスが違う」とのことだった。
これは納得感のある話である。ただし、その会社におけるウェブディレクターの職務内容をよく分かってはいないが、すべてのウェブディレクターがそうだというより、コンサルタントになれるウェブディレクターと、そうでないウェブディレクターがいるのではないか、そしてウェブディレクターには後者が多いからではないか、という仮説を持っている。
(便宜上「コンサルタント」という言葉を使っているが、顧客ビジネスがより良くなるように調査や企画、提案を行いながら顧客をリードする仕事、くらいのニュアンスである)
コンサルタントになれるウェブディレクター
コンサルタントになれないウェブディレクター
こうやって書き出すと、今も前者のスタンスで活動しているウェブディレクターからすると、「それはウェブディレクターとして当たり前の基本条件じゃないか」と思えるかもしれないが、市場には後者の「受け身なウェブディレクター」が案外多いのではないかとも思う。このようなウェブディレクターは、確かにコンサルタント的な職能にはシフトできないだろう。
しかしながら、ウェブディレクターとして本来の姿・理想の姿を目指せば勝手に前者になるし、そうなれずに後者に留まってしまうのであれば、そもそもウェブディレクターとしても未熟なのでは、と思ったりする。
とはいいながらも、すべてのウェブディレクターはコンサルタント(的な職能)にならないといけない、とまでは思っていない。
なぜなら、コンサルタントにならなくても、例えば以下のようなウェブディレクターであれば、多くの人は一緒に仕事をしてて助かると思うだろうし、クリエイターがディレクター化しても、存在する価値を周囲が感じられると思うからである。
これをウェブディレクターと呼ぶのか、PMと呼ぶのか、呼び方はさておきながら、当社においても、このあたりが理想のウェブディレクターとして求める要件になってくる。
当社では来年度に向けて評価制度の見直しを考えているが、ウェブディレクターに関しては、個人に紐づいた売上や利益といった指標で評価しない方がいいと考えている。(もちろんウェブディレクター以外にもそう考える職種は複数あるが)
例えば、見積上ウェブディレクターに割り当てられた予算に対する利益/利益率は、ウェブディレクターの努力だけでコントロールするのはほぼ不可能である。
ウェブディレクターの仕事の中には、不確実性対応もかなりを占める。そのため、まず見積もり段階で正確な工数の予測を立てるのが難しい。また、クライアント側の体制が複雑だったり、クリエイターの相性が悪かったり、予想外の欠員が出たりなどで、優秀なウェブディレクターが担当しても、プロジェクト内の利益率は低くなる、ということが発生する。
また、クリエイターと違って純粋なデスクワークではないので、効率化できる余地が少なく、仮に何かできたとしても、前述の不確実性であっという間に吹き飛んでしまうなど、再現性が乏しいのではないかと思う。
さらに、クリエイターがディレクター化してくると、ウェブディレクターの仕事が一時的に減り、数字面ではウェブディレクターの作業効率が良く見えたりする。しかしその数字はディレクションを巻き取ってるクリエイターのおかげであって、ウェブディレクターの努力の結果ではない、ということにもなる。
では、ウェブディレクターはどう評価するのがいいか?私はシンプルに以下で評価するのがいいのでは?と思っている。
ディレクターとしては、この3つを目指して仕事をしていれば、利益のようなものはプロジェクト全体では勝手についてくるのでは、と思う。
もちろん、クライアントやクリエイターは評価が甘いこともあり、「満足しましたか?」みたいな聞き方だと、ディレクターとして当たり前のことをしてるだけなのに「めちゃめちゃ助かりました!」みたいな評価になりがちなので、満足度の評価項目も書き方は要素分解して考えないといけない。
例えば社内からの評価であれば「トラブルに対して率先して解決を試みてくれたか?」「アウトプットに対して良き相談相手になってくれたか?」などを項目として聞くといいのではないだろうか。
ディレクションという仕事は非常に価値ある仕事であり、その本質はとても意義ある、皆を助ける大事な仕事である。そのため私たちの会社では、ウェブディレクターの仕事をきちんと評価したいと常々思っている。
その一方で、職種特性上、認識が甘い人が多く含まれる職種でもある。「他社のウェブディレクターはこうだから」「一般的なウェブディレクターはこうだから」という基準で満足するのではなく、「本来どうあるのが理想なのか」という観点から自らの行動や身につけるべきスキルを決めていくべき職種でもあると思う。
ベイジでは、そんなウェブディレクターにとって価値ある職場を提供しようと考えている。そして絶賛募集中である。この文章に共感できる方は、きっとベイジでも働けるはず。
以下のリンクより、是非ご応募ください。
募集要項:ディレクター