「感想戦」という言葉をご存知だろうか。ウェブで検索すると
囲碁、将棋、チェス、麻雀などのゲームにおいて、対局終了後に、開始から終局まで、またはその一部を再現し、対局中の着手の善悪や、その局面における最善手などを検討すること
Wikipediaより
と出てくる。
ベイジでは、この「感想戦」に見立てて、ミーティング(特に顧客に提案をする打ち合わせ)のあとに社内で「振り返りミーティング」を行っている。やっていることは、
である。
実はこういった取組をしていると同業者に話したところ、「それはすぐに実践できそうなので、ぜひうちの会社でもやりたい!」とポジティブなコメントをもらったため、それぞれ具体的にどんなことをしているのかをこの場を借りてお伝えしたい。
どんな制作会社でもウェブ制作のワークフロー中に、顧客へ提案するミーティングはあるだろう。たとえば、トップページのデザインの提案やメインコピーの提案などだ。この類のミーティングは、次のフェーズに進むために顧客に納得してもらう必要があるため、提案者は相応のプレゼンの準備をして臨むことになる。
ミーティング後の感想戦では、プレゼンの準備した提案者に対して参加メンバーから「Good」と「More」の点からコメントをする。
「Good」でいえば、「話のテンポがよく聞きやすかった」や「表情が柔らかく、話しやすい雰囲気が作れていた」といったフィードバックだ。
「More」でいえば、話し方がたどたどしかったりした場合、「落ち着いてゆっくり話そう」と伝えたり、一方的に話しすぎてしまったりしたときは「間をあけて、一度ここまで質問はありますか?と質問を挟んだ方が良い」といったフィードバックである。
もちろん話し方だけではなく、内容面でもフィードバックを行う。
顧客の反応を振り返りながら、「メインビジュアルのデザインの感触はとてもよかったので、事前準備の◯◯の点が良かったと思う」と伝えたり、「このデザインにした根拠の説明が足りていなかったので、もっと詳しく伝えられるとよかった」といった形でフィードバックをし、次回の提案に活かしてもらうようにしている。
ベイジの場合、デザインフェーズではデザイナーが、コンテンツ制作フェーズではライターが、要件定義や開発フェーズではエンジニアが提案を行うことが多い。
そのためクリエイターであってもプレゼンの実施とそのフィードバックを受ける環境があり、この感想戦は各クリエイターのプレゼン能力の向上の機会となっている取組みだと感じている。
提案をしたあと「何も言うことはありません。このまま進めてください」と言われることは稀で、顧客から「もっとこうしてほしい」と要望が入ることがほとんどだ。ただ、顧客の要望をそのまま聞き入れることが、正しいとは限らない。
というのも、顧客の事業やその事業の顧客(顧客の顧客)にどんなタイプがいるのか、ウェブサイトがどんな流入チャネルで訪問されるかといった、ウェブやマーケティングの戦略の全体像を掴んだ上で判断をする必要があるからだ。
そのため、我々はウェブサイト制作のプロとして、顧客の要望を受け入れることのメリットとデメリットを比較した上で判断をしなければならない。
その判断をミーティングの中ですることが理想ではあるが、すぐにアイデアが出ないこともあるだろう。
その場合、持ち帰ることになるのだが、ミーティングが終わったあと提案者が一人で悶々と考えるよりも、終わったあとのメンバー同士の感想戦で「どうすべきか」という議論をし、方向性をすぐに固めたほうが、次の工程がクリアになり、作業が進めやすくなる。
『三人寄れば文殊の知恵』ということわざがあるが、チームで支援をしている制作会社の大きなメリットの1つだと思うので、提案者だけに任せない姿勢が重要だ。
ミーティングの後はタスクが発生することが多い。
エビングハウスの忘却曲線によると、人は20分後には内容の42%を、1時間後には56%を、1日後には74%を忘れてしまうと言われている。
もちろん議事録は取っているので、完全に忘れることはないが、ミーティング直後に参加者同士でネクストアクションを確認しあうだけでもこの忘却曲線の減りを緩やかにすることができるように思う。
「次回のミーティングまでにデザインの修正をやっておく。具体的にはメインビジュアルの印象をもっと明るい印象になるように調整する」などネクストアクションを具体的に口頭で確認し合う。
個人的な経験則ではあるが、意識に残りやすいからか、このようにするとタスクの実行確率は高まると感じている。
立て続けにミーティングがあったり、作業が詰まっている場合、感想戦ができないこともある。そういう場合は、テキストでも良いので、提案者にフィードバックを送ろう。
基本的に提案者以外のメンバーは、話を聞くことになるはずなので、ミーティング中に気になったところをメモに取ってしまえばすぐに共有ができるはずだ。
あらかじめ「フィードバックをしよう」という姿勢で臨み、メモの準備をしておくと良いと思う。
何事もそうだと思うが、伝え方の工夫をするべきだろう。「私が個人的に気になった点なのですが」や「◯◯さんもすでに気づいていると思うのですが」などの枕言葉は相手の受け取り方を和らげるテクニックの1つだ。
また、「Good」もセットで伝えるようにすることも良い方法だと思う。足りない部分に目を向けられると、どうしても身構えてしまったり、聞き入れにくくなってしまうため、良かった部分を先に伝えることで、意見に耳を傾けやすくなるように思う。
(もし伝え方を工夫したとしても、怒ったり、機嫌が悪くなってしまう人がいる場合は、その人の人間性や人間関係など別の問題になる可能性があるため、上長やマネジメントメンバー等に相談すべきだろう)
ベイジの場合、ディレクターやコンサルタントとクリエイターがセットでミーティングに参加することが多く、チーム体制を敷いているからこそできる施策のように思える。フリーランスの方や少人数の制作会社では、ディレクターしかミーティングに参加しないため、難しいと思われる方もいらっしゃるだろう。
ただ、そんな状況でも工夫次第では、感想戦は一人でもできると考えている。
たとえば、もしオンラインでミーティングをしているのであれば、「録画」をさせてもらうと良い。録画ができれば、1人で振り返ることができる。「正確な記録を録るため、あとで言った言わないのトラブルを防ぐため」と伝えれば、断る顧客はあまりいないはずだ。
オフラインの場合はなかなか難しいが、もし顧客と関係性がある程度できているのであれば、「今日のプレゼンの満足度はどれくらいですか?」「納得いく成果物になっていましたか?」と率直に聞いてしまうのも手であると思う。
そこから、あまり満足度や納得感が高くないのであれば、その理由を深掘りしていけば、次にどんなアクションを取ればよいか自ずと見えてくるのではないだろうか。
提案のミーティングのあとの30分~1時間はゴールデンタイムだと思う。
記憶が新しいうちに、フィードバック、検討事項の決定、ネクストアクションなどをまとめられるとスピード感もクオリティも上がるので、チームにとっても、プロジェクトにとっても、顧客にとっても良い取組みになるはずだ。
まだやったことがないという方に、ぜひオススメしたい施策である。