「忙しいけど大丈夫です」 「忙しいけど、あと3日でどうにかなりそうだから大丈夫です」 「忙しいですが、なんとかします」
マネージャーになってから、メンバーの「忙しい」という言葉をどう受け止めればいいのか悩むようになった。
この一語だけでは、本当のところが見えてこない。ちょうどいい忙しさなのか、限界が近い忙しさなのか。さらに言えば、その「大丈夫」の基準も人によって大きく異なる。
どちらかというと私自身が「忙しい」という言葉を安易に使いがちだったこともあり、他人の基準が自分とはまったく違うのだと気付いた。
そこで先日のチーム合宿で、「忙しさとは何か?」を言語化するワークショップを実施してみた。自己理解と相互理解が目的で、すっきりした答えが出るものではないため、参加してもらった皆さんが楽しめるタイプのものではなかったかもしれない。ただ、ワークショップのアウトプットを眺めていると、それぞれへの理解には確実に役立ったと感じている。
忙しいとはどういう状態なのか、まず自分なりに定義してみた。
時間・思考・感情・裁量・プレッシャーのいずれか(または複数)が、自分の許容量を超えている状態になると「忙しい」と言えそうだ。それぞれの状況を、もう少し例を挙げていくとこうなる。
目安としては、カレンダーの白い部分がない状態や、一息つく時間もなく次から次へとタスクに追われている状態が該当する。
目安としては、ミスや漏れが増えたり、メールやチャットの返信が後回しになったりする状態だ。
目安としては、「とりあえず全部やるしかない」と思ってしまったり、後から「もっとやりようがあった」と気づいたりする状態だ。
目安としては、小さな指摘で傷ついたり、誰とも話したくなくなる(あるいは話しすぎてしまう)状態が該当する。
目安としては、「気を抜いたら怒られる」と思っていたり、自分が止まると周りに迷惑をかけると感じている状態だ。
時間がなくて忙しい時もあれば、時間的余裕はあっても難易度が高かったりプレッシャーが重いことで余裕がなくなり、忙しくなることもある。
そして特にクライアントワークでは常に締切があり、クライアントも定期的に入れ替わり、不確定要素が多い。忙しさを0にするのは中々難しい。
クライアントワークと事業会社どちらでも働いたことがあるが、正直クライアントワークが事業会社よりも忙しくなるのは特性みたいなもので、一定は割り切るものだと個人的には思う。それでもクライアントワークを選びたい面白さがあって私は選んでいるが、忙しさを減らしたいなら事業会社に転職した方が手っ取り早い。
すべての忙しさを無くすことはできない前提の上で、気にしたいのは心身の健康に影響を及ぼすレベルの忙しさについてだ。
今回のワークショップで、チームメンバーの自己分析による限界ラインに多く見られたのは、「複数案件を同時並行で進めている状態で、心理的な余裕が持てなくなっている」という忙しさだった。
一般的にも、クライアントワークにおいて複数案件を抱えることは珍しくないが、案件数が増えるほど各案件への集中力が分散し、メンタル面での負荷が高まりやすい傾向がある。
ということは、持つ案件数を適正に保ちながら売り上げと利益が立つような仕組みにできないか、または複数案件を持つときの仕事の進め方についてのコツを掴むことが、心身の健康を維持することにつながるかもしれない。複数案件を持っているメンバーは特に気を付けて様子を見ていく、というのも一つの目印にもなる。
「忙しい」という漠然とした言葉では、何が問題かもわからず解消のしようがなかった。
しかし、こうして個々人に忙しさを分解してもらい、その考えを見てみると解像度が上がった。時間が足りないのか、思考が追いつかないのか、感情が揺れているのか。同じ「忙しい」でも、その中身はまったく違う。
マネージャーとしてできることは、メンバーが発する「忙しい」という言葉の奥にある本当の状態を理解しようとすることだと思う。そして、その理解をもとに、うまくバランスをとって持続可能なチーム運営に活かしていきたい。
もしみなさんのチームでも「忙しい」という言葉が飛び交っているなら、一度立ち止まって「どんな忙しさなのか?」を言語化してみてはどうだろうか。解像度が上がるだけで、打てる手が見えてくるかもしれない。