「ユーザーの期待値を越えるとは」
「期待値を超えろ」とはよく言われる。では、期待値を超えるコンテンツとは具体的にはどういうものだろうか。
ビジネスでなくても、好きな漫画が実写化されたものの観てがっかりした経験を持つ人は多いだろう。一方で、実写版がとてもよかったので原作に興味を持つというケースもある。この差は何から生まれるのか。
制作の現場で言えば、「プロにわざわざライティングをお願いしたけど思ったほどではなかった(がっかり)」と「やっぱりプロに頼んでよかった、次もお願いしたい(他への派生)」という違いともいえるだろう。
この違いを生む具体的なポイントはなにか。今回も人気の作品例を挙げながら説明してみる。
「受け手の想像の範囲を超える」
この作品のすごさは、木村拓哉を主役に起用したことだろう。「元・凄腕刑事、白髪・義眼、身の毛もよだつ冷酷無比な鬼教官」というキャッチフレーズを聞いたとき、どのような人物像を想像するだろうか。おそらく根津甚八や佐藤浩市のような、渋くて怖くかっこいい役者ではないだろうか。しかし、それでは“当たり前”であり、驚きはない。
木村拓哉は、何をやってもキムタクと言われるほどキャラクターが確立されていた。そのキムタクが、全く異なるイメージで演じたからこそ驚きが大きかった。「まさかこの役をキムタクが?」という配役の意外性と、「キムタクがここまでやるのか」という演技の振り幅が、視聴者の期待値を大きく超えたのだ。
これをライティングで例えるなら、クライアントから共有された資料の通りに正確に書いても、それは”当たり前”であり「驚きはない」ということになる。期待値を超えるには、キムタクの例に見られるように、視点や切り口に意外性が必要だ。言い換えれば、読み手が「ああ、なるほど!それは気づかなかった!」と思う瞬間を設計できるかどうかが、普通のライティングと期待値を超えるための分岐点になる。
ライティングの文脈で、視点を変えて驚きを設計する例をあげてみよう。
業務システムの課題をお持ちではありませんか。当社のサービスは情報の一元化が強みです、導入すれば御社の課題が改善できます。
この文章は具体性に欠けることを差し引いても、驚きにつながるポイントがない。例え全て事実でありそれを正しく記載していたとしても、読み手の興味を引くことは難しい。読み手が知っていることを並べるだけでは、期待値は超えられない。
生産性向上ツールを3つ以上導入している企業ほど、現場の作業時間が増えています。これは当社が200社を調査して分かった事実です。
「ツールを増やすほど便利になる」という読み手の常識を逆転させることで、「えっ、なぜ?」という強い興味を引き出す。ツールの削減や統合が必要な理由を感覚ではなくデータで提示することで、読み手は「自社も同じかもしれない」という当事者意識を持ちやすくなる。意外性のある事実を起点に置くことが、このパターンのポイントだ。
在庫データの入力ミスは月に何件起きていますか。その1件あたりの平均損失額を計算したことはありますか。多くの企業が、この数字を把握していません。
「課題がある」という漠然とした認識を、金額や件数という測定可能な数字に落とし込むことで、読み手に損失の輪郭を掴ませる。「なんとなく非効率だとは思っていたが、実はこれほどの損失だったのか」という気づきが、導入を検討する動機に変わる。抽象的な課題を可視化することが、このパターンでは核心になる。
解約する顧客の80%は、満足度調査で「満足」と答えていました。つまり、満足度調査だけでは本当の解約理由は見えないのです。
読み手が「正しい指標」だと信じていたものが、実は機能していないという”矛盾”を突きつけることで意外性を生む。「満足しているのに解約する」という一見理解しがたい事実が、「ではなぜ?」という問いを自然に生み、別の指標や分析手法の必要性を納得させる。正解だと思っていたものを崩すことで、新しい視点が生きてくるパターンだ。
営業担当者に「何に一番時間を取られているか」と聞くと、ほとんどが「社内調整」と答えます。顧客対応ではないのです。
リアルな人物が感じている問題を、その言葉や行動を通じて描写することで、読み手に「うちも同じだ」という強い共感を生む。データではなく”生の声”を使うことで、ツールの導入だけでは根本的な解決にならないという課題の本質を、説明せずに伝えることができる。読み手が自分で気づく余地を残すことが、このパターンのコツだ。
① 認識の転換パターン:読み手が「良い」と信じていることが、実は逆効果だという事実を提示する
常識や思い込みを逆転させることで強い興味を引き出す。データや調査結果を根拠に使うことで、単なる主張ではなく「発見」として届けられる。
② 具体的な損失の可視化パターン:漠然とした課題を、測定可能な金額や件数で目に見える損失として示す
「なんとなく困っている」を「実はこれだけ損している」に変換することで、読み手の課題認識を一段階引き上げる。数字の具体性が意外性と納得感を同時に生む。
③ 逆説的事実パターン:一般的な指標や常識が、実際には機能していない矛盾を指摘する
「正しいと思っていたものが正しくなかった」という構造が、読み手に強烈な問いを与える。新しい解決策や視点の必要性を、読み手が自ら納得する形で提示できる。
④ 当事者の声パターン:現場の人間が実際に感じている問題を、その言葉や行動を通じて描写する
統計や論理ではなく”人の言葉”が持つリアリティが、読み手の共感を引き出す。「自分たちのことを分かっている」という信頼感にもつながるパターンだ。
なお、一点注意したいことも挙げておく。
「教場」は配役やキャラクター造形で驚きを生んだが、学園ミステリーというドラマとしての基本的な形式は崩していない。水戸黄門のドラマで最後に黄門さまが負けたとしたら、それはもはや別の作品だ。
意外性を設計するといっても、「こうであるべき」という基本は無視してはいけない。サービス紹介ページにサービスの詳細を載せなければ、それはもはやサービスページではなく別物だ。意外性は、守るべき枠組みの中でこそ効果を発揮する。読み手の期待を超えることと、読み手の信頼を裏切ることは、まったく別の話であることには気を付けたい。