Webデザイナーとして、デザインを考える作業と同じくらい重要なのが、顧客へのデザイン提案だ。
自分は提案の中での顧客とのコミュニケーションやディスカッションに苦手意識がある。その悩みを社内で定期的に行っている1on1で相談したところ、顧客の意見をうまく引き出し、デザイン提案時に主導権を握るための2つのコツを教えていただいた。
ミーティングでの顧客の意見は、目的ベースかアイデアベースの2種類に分類される。目的ベースとはサイトを作る目的やサイトに求める役割が分かったうえで出てくる意見。アイデアベースは個人の主観や直感が前面に押し出された意見のことを指す。このどちらなのかを見極めながら、意見を取捨選択したりミーティング全体の舵取りをする必要がある。
採用サイトでのデザインの方向性を決めるミーティングを例に出してみる。この場合、考えられる目的ベースは「ターゲットとしてはコミュニケーション力があり意見を活発に出してくれそうな人材を採用したい。なので、親しみやすく明るい職場であるというメッセージを伝えたい」という意見。アイデアベースは「明るくてポップで遊び心のあるサイトにしてほしい」という意見が考えられる。
アイデアベースの意見は、その時の顧客の直感や気分が影響していることが多い。なので、ミーティングごとに意見が大きく変わってしまうこともありえる。ともすると、デザインの最終決定段階で「やっぱりカジュアルすぎて安っぽい印象かも。中途採用がメインなのにイメージにそぐわない」という意見が出て、最初からデザインを練り直すことになるかもしれない。一方、目的ベースの意見には明確な根拠やゴールがある。それをベースに制作することで、顧客の求める人物像やサイトの役割などと、近いイメージのデザインが制作できる。
このように、Webサイトに求める役割と照らし合わせたときに、顧客の意見が目的と合致しているかどうか判断することはとても大切だ。顧客の目的ベースの意見を反映し、すり合わせることで、余計なやり取りや出戻りを減らすことができ、全体の作業効率も上がるのではないだろうか。
顧客から「親しみのあるカジュアルな印象」「真面目で堅実な印象」両方の要素をウェブサイトに加えたい、という両極端な要望が出ることもある。しかしこのような相反する印象を同時に与えることは、正直難しい。この場合、1つの軸を示したうえで顧客の意見に優先順位をつける必要がある。
一例として、それぞれ異なる2つの軸を定めて考えてみる。まず、「会社の現状に合わせること」を軸とするとき。会社全体にカジュアルなカルチャーがあり真面目なイメージは実情に合わないのなら、カジュアルよりのイメージに焦点を当てた方がよい。次に「目指したいブランドイメージに合わせること」を軸と定めたとき。会社自体はカジュアルなカルチャーだが、将来的に「真面目で堅実な会社」としてユーザーに認知されたいなら、真面目なイメージの優先度を上げた方がよい。
顧客の理想を取り入れる努力はしつつも、サイトを訪れるユーザーの視点や会社のブランドイメージも踏まえたうえで、優先順位を付けて方向性を絞っていくことが大切だ。
ミーティングではつい顧客の意見に耳を傾けすぎて、御用聞きのようになってしまいがちだ。だが、上記のアドバイスのように、自分が主導権を握ってミーティングを進めることで、結果的に顧客の負担も減らすことができるのではないだろうか。
自分の意見を主張することや顧客の意見を判断し優先順位をつけることはとても難しい。1on1の最後では、プロジェクトの上流から携わり、プロジェクトの全体像をくわしく把握することで、自信を持って意見を主張できる力が身につく、というアドバイスもいただいた。
ここ数年、ベイジではプロジェクト上流の戦略工程のミーティングにもデザイナーが参加するようになった。顧客の課題や要望をより深く理解できるよい機会だと思い、積極的に議論にも参加していきたいと思う。