turntable.fmが再び日本で楽しめる日は来るか?

久しぶりの大型Webサービスとして日本のWeb関係者や音楽関係者、音楽好きの間で一気に広まっていったturntable.fmですが、やはりというか、6/25をもって日本からはサービス利用ができなくなってしまいました。このあたりについて思ったことを少し書き綴ってみようと思います。(著作権等に関することは素人なので、もし認識違いしている箇所があればご指摘ください)

turntable.fmが日本で使える可能性

turntable.fmを運営するCEOのBilly Chasenは「We are working very hard to try and get you in as soon as possible. 」と言っていますが、実際のところturntable.fmが正規の利用方法で日本から使えるようになる可能性は低いと思います。というのも、これは技術的な問題ではなく、著作権の問題だからです。

CDにおいては、日本のレコード会社が発売している一般に「日本盤」と呼ばれているCD以外に、海外から輸入している「輸入盤」を購入できるのは周知の事実でしょう。しかし、実はデジタルの世界では、正規音源は国境を越えられない、というのが原則です。例えばiTunesStoreは各国で展開していますが、音楽を購入できるのはその国のクレジットカードを持っていることが条件です。基本的に、日本国民が米国のiTMSで米国価格の安い音源を入手することができません。これはiTunesStoreに限らず、AmazonMP3をはじめとするオンラインの音楽ダウンロードすべてに共通する仕様です。ではyoutubeのオフィシャルチャンネルで聴く行為はどうなのか、Paypalで買えるサイトはどうなんだ、という議論はありますが、原則はそうなんだと思います。

今回のturntable.fmのサービスの肝になっている音源データは、MediaNetのサービスを使っています。ユニバーサルやソニー、ワーナー、EMIといった大手メジャーレーベルがコンテンツパートナーとしてなっており、それ故にユーザは膨大なライブラリの中からセレクトして自分の好きな音楽をかけることができました。しかし、こういったメジャーレーベルが関わっている以上、当然前述の「音楽のデジタルデータは国境を越えてはならない」という基本ルールが適応されるはずです。

turntable.fmが米国外からのアクセスを遮断するに至ったのも、この基本原則に従ってのことでしょう。そしてこの基本原則が変わらない限り、米国外からturntable.fmを利用できる日が来ることはありません。CDがかつて輸入盤が解禁になったように、国境を越えたデジタルデータのやり取りが解禁されるのを待つしかないのが実状です。

最近のクラウド化の流れを見ているとそれもそう遠くなさそうですが、やはりturntable.fmでもMediaNetでもないもっと大きな力を持った誰かが基本ルールを変えてくれるしかない、という極めて他力本願の待ち状態であることには変わりはありません。

turntable.fm的なものを日本国内で立ち上げるには

有力サービスの利用停止という事態は、ユーザやファンにとっては悲しむべき出来事ですが、Webサービスで成功しようと虎視眈々と目を光らせているベンチャーにとっては大きなチャンスでもあります。では、例えばかつてorkutにインスパイアされて日本独自のSNSとしてmixiが立ち上がったように、turntable.fmを参考に、より日本国内の実態と著作権の特性に合わせた日本独自の類似サービスを立ち上げることは可能でしょうか?

技術的にはまったく問題ありません。2~3名の優秀なUIデザイナーとエンジニアが集中して開発すれば、ものの1~2ヶ月で立ち上げることが可能でしょう。

しかし、やはりここでも著作権の問題が絡んできます。まず、日本には、有料/無料を問わず、MediaNetのように、オンライン上で自由に音楽を再生することを許しているサービスが存在しません。となると、ユーザのアップロードを前提にしたものにするか、youtubeなどのAPIを使ったものしか選択肢はなくなります。しかし前者は確実に違法になるでしょうし、後者は扱える曲がかなり限られてくる上に、音質などのクオリティ面でのバラつきも出てきます。法律的にもややグレーです。

そうなると、やはりオンラインで音楽を楽しむサービスを、どこかの企業なり団体なりが整備してくれるのを待つしかありません。これは一ベンチャーができるものではなく、業界団体や著作権団体を巻き込み、さらにも法律自体も変えるなど、かなり大がかりなものとなるはずです。

急速に進むクラウド化の環境と行き詰まりを見せる著作権ビジネスの現状を考えると、こういった動きが活発になるのは期待できます。実際、JRCがUstream上での二次使用を許した例やニコニコ動画内での楽曲利用が許可された例もありますし、私が知らないだけで既に大きなプロジェクトが動いているのかもしれません。ただ、それが外部で流用可能なサービスとして実現するのはもう少し先で、それは海外のクラウドサービスが上陸してくるのとどちらが早いか、となると判断が難しいところです。もしかしたら、Googleあたりが著作権の壁を無視して、有無を言わせないぐらいにシェアを広げてクラウドの自由利用を既定路線にしてしまう方が早いかもしれません。

しかし、現時点での結論としては、著作権が絡む以上、SNSの時のように国内独自サービスをすぐに立ち上げることは難しく、前章のturntable.fmが日本で使えるようになるか、という問題と同じく、著作権を解消したクラウドサービスの整備待ち、という状況です。

ただ、turntable.fmが著作権の壁にぶち当たり日本を席巻することは当面ないことを考えると、国内の状況を逐一観察し、サービスの実現が可能になった段階で速攻リリース、国内のシェアを一気に獲得、そこからアジアなどのグローバルに進出、という戦略を取れる可能性はあります。体力のないベンチャーは、ここに望みをかけるという手はあるでしょう。

turntable.fm的なものを日本国内で立ち上げたときのマネタイズ方法

turntable.fmは無料サービスだったことも、ユーザとしてはインパクトが大きかったと思います。MediaNetが有料サービスであったことを考えると、おそらく当面の使用料はサービス提供者が支払い、ユーザをある程度獲得できた段階で広告モデルなどを投入してマネタイズする、という方法なのでしょう。

しかし、著作権料がもう少し高い日本でこれをやるには、ややリスキーな気がします。ベンチャーキャピタルから支援を受けた企業なら可能性はありますが、経営体力のない中小のベンチャーが趣味の延長で手を出すと痛い目を見るでしょう。

ただ、私個人としては、turntable.fm的なサイトを日本でやるのであれば、ユーザ課金型のサービスでいいんじゃないかな、とも思っています。

turntable.fmは音楽の楽しみ方を一変するかのような論調もありましたが、特にDJとなって音楽をかけたいと思うユーザに限ると、かなり深く音楽を聴いているニッチ・ユーザです。実際turntable.fmも、話題となった一週間くらいは物珍しさで参加した日本人ユーザが多かったですが、一週間もするとコアな音楽ファンだけがDJブースに残っていたように思います。

こういうコアな音楽ファンは、自分の好きな音楽を人に聴かせること自体に喜びを感じています。なので、サービスが無料である必然性はあまりなく、それほど高額でなければ有料でも積極的に利用すると考えられます。そこで、DJをするユーザに課金し(1曲10円とか?)、それを聴くユーザは無料、それで足りない分は広告モデルや音楽の販促と絡めた企画コンテンツのスポンサー収入で補う、というスタイルがいいんじゃないかな、となどと思います。実際のマネタイズ計画はこんなに簡単に考えるものではないのでしょうが、フリーであることにあまりこだわる必要はないかな、というのが私の見方です。

いずれにしろ、私個人としては、どこかの誰かが著作権の仕組みを整備し、一日でも早く、turntable.fm、もしくはそれに類するサービスが日本で立ち上がってくれることを願っています。いや、うちの会社でやるという手もありますが、それはおいおい考えていきましょう。