個人目標達成のためのフレームワーク

当社では毎年1月、「目標シート」なるものの作成を各自行ってもらっています。前年度目標の達成率が年棒に大きく作用するということもありますが、それ以上に、個々人が仕事を通して意味のある成長をするために、毎年必ず設定・見直しをしておかなければならないものと考えています。

この目標シートは、私が勤めていたNTTデータの評価システム、知人の会社での人事評価の実態、自己啓発等の参考書籍、そしてもちろん私自身の経験を踏まえ、フォーマット化したものです。決して画期的なものではありませんが、目標の計画立案を大きく手助けしてくれるツールではないかと思いますので、ここで紹介させていただきます。

目標シートのフォーマット

目標設定シートのフォーマットは、以下のような構造になっています。エクセルのシートもこちらからダウンロードいただけます。(中身は適当に入れた記入例です)

ご覧いただくと分かると思いますが、次年度の目標年収を満たす目標を設定する→その目標を達成するための現在の課題を抽出する→その課題を解決するアクションを計画する、というのが基本的な流れになっています。これを今年の分だけではなく、5年分をまとめて書いていきます。

ミッションの設定

ミッションは、仕事を通じて追及していきたい人生の大目標です。これは毎年変わるものではありません。経済的な目標でなくてもいいですが、今の仕事の仕方に影響を与え、公私において成長をすることで成し遂げられ、かつ自分が本質的に求めているものでなければなりません。簡単に達成できることも、ミッションとしては不適切でしょう。

悪いミッションの設定例)

×)アートディレクターになる。 2~3年で達成できそうなことは、ミッションとしてはふさわしくないしょう。アートディレクターになった後は、どうなるのでしょうか。なんのためにアートディレクターになるのでしょうか。もっと長期間にわたって追求すべき、本質的なミッションの設定が必要でしょう。

×)顧客視点でビジネスを考えられるようになる。 これも同様ですが、なぜ顧客視点でビジネスを考えたいのでしょうか。そうなることで何を実現したいのでしょうか。その答えがミッションであり、これはおそらくミッションを達成するための手段や課題でしょう。

×)周りの人を幸せにする。 このように抽象的すぎて、今の仕事をやっている必然性・関連性も薄く目標を立てにくいものは、ミッションとして不適切でしょう。周りの人を幸せにしたいのは人として当たり前のことです。もう一歩踏み込んで、自分の価値観や生きる意味も含め、今の自分、これからの自分を方向付けるミッションであるのが理想です。

良いミッションの設定例)

〇)ネットに関わる仕事をつづけ、60歳までに1億円貯める 60歳までに1億円という明確な期限と数値目標が設定されており、ネットに関わり続けるという基本的な方向性も定義されているため、具体的な目標に落ちやすく、理想的なミッションの設定例と言えます。

〇)地元に戻って地域を活性化して市長になる 地域や社会に貢献したいという、自分の中に根差した本質的な欲求と連動しており、市長になるという具体的なイメージもあるため非常に良いミッションだと思います。現在の仕事とは直接関連性がないようにも見えますが、今の仕事と社会貢献・地域活性化を直線で結ぶことで、現在の仕事の方向性を決定付けできそうです。

〇)お金をためて家族でハワイに移住して暮らす 自分の夢や理想に直結し、達成にはやや困難と努力を要し、かつ現時点の具体的な目標に落とすことができるので、ミッションとしては理想的と言えます。ハワイに家族で移住するためにはどのくらいのお金が必要か、ということから目標とする年収の設定などもできますし、そのために獲得すべき英語や不動産などの知識は、きっと仕事でも役に立ってくることでしょう。

年収の設定

年収はわかりやすい成功のバロメーターです。収入を上げるということは、会社や事業に利益貢献をすることが前提になります。つまり、個人の年収を上げるための計画が、会社や事業に貢献する計画にもなるわけです。年収の設定基準は人それぞれでこういう金額はダメというものはないですが、ミッションを達成するための年収設定であり、現状維持よりは成長を続ける計画であることが理想的です。

目標の設定

目標は、ミッションの達成により近づくための、各年毎の年次目標です。数は自由ですが、多すぎると焦点が絞りにくくなるため、3~5つぐらいに絞ったほうが良いかもしれません。これは次年度の年収を実現できることを条件とします。年収と関連してきますので、仕事に対する直接的・間接的な貢献が前提となります。ミッションとは関係ないもの、仕事に結び付かないもの、あるいは達成しても貢献度が低いものは、目標としては不適切です。当たり前の目標になる可能性もありますが、個人のミッションに繋がり、仕事にも貢献できるのであれば、問題ありません。それよりも目標と手段がゴチャゴチャになりやすいので、むしろそのことに気を付けましょう。

悪い目標の設定例)

×)人脈を増やす 人脈を増やすこと自体は悪いことではないですが、それが必ず収益性の向上につながるわけではないので(人脈が広がっても顧客にならなければ意味がない)、目標としてはやや弱いです。目標としては「新規顧客の獲得」というくらい、直接的な目標であるべきでしょう。

×)ブログを立ち上げて継続的に更新する ブログを作ること自体は悪いことではないですが、ミッション、仕事との関連性は希薄で効果が判断しにくい目標です。「業界内での新しいブランドイメージを構築する」を目標とし、「業界向けのWebを使った社会貢献をテーマにしたブログを立ち上げて月間10万PVを狙う」というアクション設定をするのであれば良いかもしれませんが、ブログの立ち上げ自体は目標には相応しくありません。

×)会社サイトのPVを倍にする 会社サイトのPVがアップすることは悪いことではないですが、やはりPVアップ=収益アップに繋がるのか、という点が大きなポイントです。PVがアップしても受注が増えないのであれば、目標を達成する意味はありません。また、あまりにも会社都合ばかりの目標では、達成のためのモチベーション維持が難しくなります。個人ミッションとの関連性もある程度考慮したものが理想的です。

良い目標の設定例)

〇)SEOの高度な知識を身に付け、実践する Webの仕事でSEOの知識を身に付ければ、クライアントへの提案、自社サービスの販促など、様々な面で直接的に収益に繋がってきます。SEOの知識を活用してセルフブランディングし、個人のミッションに繋げることも可能です。具体的なアクションにも落としやすいですし、理想的な目標設定と言えます。

〇)ビジネストークを極める ビジネストークは普遍的に活用できる重要なソフトスキルです。これを習得することは、個人のミッションにとっても、会社にとっても大きなメリットとなることでしょう。アクションの範囲が広がり過ぎる懸念はありますが、例えば心理学によるアプローチに焦点を絞り、数年間にわたって設定する目標としてもいいかもしれません。

〇)社内コミュニケーションを活性化する 社内コミュニケーションの活性化自体は直接的に売り上げに繋がるものではありませんが、職場環境が良くなることでストレスなく、周りの人もモチベーション高く働くことができるようになります。また、この目標を達成し、コミュニケーションを活性化できるスキルを身に付ければ、公私にわたって様々な面で役に立つことでしょう。

課題の設定

目標とは、今すぐに実現できないものです。ということは、現時点では、目標を達成するための課題を抱えているということになります。その目標達成の障壁を洗い出すのが、課題の抽出です。ここは目標と対になっている必要はありません。1つの目標に2つ、3つの課題があればそれは全て洗い出し、複数の目標に共通する課題は1つにまとめます。課題に関しては、良い課題、悪い課題というような一般化がしにくいため、ここでは例示は割愛します。

アクションの設定

課題を解決する手段がアクションです。アクションは、常に課題に紐付いたものになります。多くの課題がそうでしょうが、一つのアクションで解決できない場合には、複数のアクションを設定します。アクション設定の最低条件は、期限を切り、数値化し、アウトプットを明確にすることです。期限がなければ後回しになり、数値がなければ実施の基準がなくなり、アウトプットがなければ客観的評価ができなくなるためです。

悪いアクションの設定例)

×)デザインの参考書籍を探す 例えばデザインのスキルアップが課題で、それを解決するためのアクションだとしたら、これは不適切でしょう。なぜなら、探すだけで課題は全く解決しないからです。また、数値目標も期限もアウトプットも設定されていなので、アクションの実施可能性が極めて低く、客観的評価も難しいです。例えば、2年後に一冊探しただけでもアクションのステータスとしては「済」になりますが、それではダメですよね。こういう方向のアクションを立てるのであれば、例えば「1か月以内に参考書籍を100冊ピックアップして優先順位を付けた読書リストを作り、毎月3冊以上読破する」というようなアクションの設定が良いでしょう。

×)1ヶ月に1回、Webマーケティングに関するつぶやきをTwitter上で行う これは数値目標も期限もアウトプットも明確なので、アクションのフォーマットとしては十分なのですが、問題は内容です。1ヶ月に1回、140文字のつぶやきを投稿するだけというのは、アクションとしてあまりにも弱くないか、という点です。実施規模が小さすぎる、期限が先延ばしになり過ぎる、というアクションはせっかく実施しても、効果が望めない可能性が高いです。現実的に目標を達成するための、十分な数値目標や期限、アプトプットを設定しなければなりません。

×)1か月以内にCMSに関する情報発信ブログを立ち上げて、3か月以内に月間100万PVに到達する。 これも目的がはっきりしててアクションとしては悪くはないのですが、3か月以内に月間100万PVというのは現実的に実施可能なのか、という点が問題です。あまりも困難なアクションは、実際には到達できず、持続することも難しくなるため、アクションの設定としては不適切でしょう。簡単すぎるのも問題ですが、ある程度の努力で実現できそうな、現実的なアクションを設定する必要があります。

良いアクションの設定例)

〇)6月までにiPhoneアプリを公開し、3ヶ月おきにレビューを行って、問題点をチェックシート化する。 例えば「iPhoneアプリのスキルとノウハウがない」という課題があれば、これは非常に有効なアクションとして機能するでしょう。期限(6月まで)と数値目標(3か月おき)とアウトプット(チェックシート)が明確で、実施にあたっての無理がないからです。ではどういうアプリを作るのか、どういう内容のレビューにするのか、という派生する課題は今後詰めなければなりませんが、年間計画に記載されるアクションとしては、まずはこれで十分でしょう。

〇)Facebookのフレンドを今年中に500人にして、1日1回Webに関する情報発信をする。 これも期限(今年中)、数値目標(1日1回)、アウトプット(Webに関する情報発信)が明確で非常にいいアクションです。情報収集の手間は少しかかりますが、実施にあたっての負荷が軽いというのも、アクションとしては優れていると思います。

〇)週末は必ず外食をし、紹介記事をブログにまとめる。 例えば「文章力がない」という課題に対しての場合。これはプライベートとの境界線があいまいですが、楽しみながら実施できるアクションは実行可能性が高く、理想的なアクションと言えます。またこのアクションには期限設定がないですが、継続的にずっと続けていくものであれば、あえて期限はなくても大丈夫でしょう。

5か年計画にする

当社の目標シートでは、今年分の目標をまとめるだけでなく、5年先の目標を書くようにしています。もちろん、未来になればなるほど課題やアクションは曖昧になり、実施可能性などは推測しにくくなると思いますが、それはそれとして、一旦5年分を書いてもらいます。というのも、単年度の設定だけでは、場当たり的な目標やアクションなってしまうからです。2年後、3年後、5年後にやるべきことをある程度考えていればこそ、今年やるべきことの優先度や方向性が見えてきます。また、あらかじめ計画を書いておけば、その翌年になった時の、計画の継続や変更の判断も的確で容易なものになります。最初は一気に5年分書くことになるので大変なのですが、翌年以降は基本的にアップデートだけになりますので、まずはがんばって書いてもらうことにしています。

大切なのは、やるべきことを明確にして意識すること

さて、こういう目標シートを設定して実際の効果のほどは?というところが、一番気になるなところでしょう。

ここからは私の個人的な経験になりますが、28歳の時にNTTデータを辞めてWeb業界のWebデザイナーに転職しようとした時、35歳の時に独立してフリーランスになろうとした時、自社サービスを立ち上げようとした時、いずれの時も、フォーマットは全く違いますが、似たような目標シートを作りました。結果からいうと全てのアクションをきちっと実施したわけではありません。中にはまったく実施しなかったものもありました。ただし最終的には、見切り発車なところがあったり(転職)、用意すべきものがすべて揃ってなかったり(独立)、開始時期が遅れたり(自社サービス)しつつも、いずれも目標の達成には漕ぎ着けることができました。私よりも意志が強く優秀な方であれば、もっと早い段階で大きな成果を生み出すのだろうな、などとも思います。

目標達成はもちろん大事で絶対達成するという強い意志を持つことは必須条件ですが、自分の計画を文書化することで今やるべきことが明確になり、意識が高まるというのが、最初の一歩としてなによりも大切です。ミッションなどは、数日考えてすぐにこれがいい、と決められるものではありませんが、毎年自分のミッションはなんなのかと考えていけば、5年後には見つかるかもしれません。環境が変わってミッションを軌道修正しなければならないときも、自分の価値観が定まっていれば、より適切な軌道修正ができるでしょう。少なくとも、ただ日々の仕事の忙しさに追われて何も考えずに生きていくよりは、遙かに充実した人生を送る確率が上がります。また、自分が先輩や管理者になった時には、こういった目標達成の手段が、部下や後輩の教育にも役立ってくるでしょう。

それぞれのフォーマット、やり方で構わないと思いますが、大きな目標がある、今の自分を変えたい、目標に向かって有意義に仕事をしていきたい、自分が働く意義を見つけたい、と考えているのであれば、是非このように目標と計画を可視化・文書化してみることをおすすめします。