マーケティング、デザイン、キャリア

偉大なロックバンドから学ぶ11のマーケティング戦略

音楽というと、アートの世界であり、その成功は天才的なセンスやカリスマ性といったもので説明されがちな分野です。しかし、20年ほど音楽を聴き続け、一方で仕事を通じてマーケティング等の知識を学んでいった私からすると、音楽ほどマーケティング理論やブランド理論が如実に反映されている分野もないとつくづく思います。

特に商業的に成功したアーティストには、単なる楽曲の魅力だけでなく、マーケットに対するポジション取りのうまさやブランド戦略の巧妙さを、顕著に感じることができます。

ここでは、以下の11の事例を元に、マーケティング戦略という観点から彼らの成功を分析してみました。

  1. RADIOHEADと破壊的イノベーション
  2. AC/DCと不変性
  3. U2とコーズ・マーケティング
  4. NIRVANAとポジショニング
  5. LINKIN PARKとフォロアー戦略
  6. BON JOVIとブランド・エクステンション
  7. THE STROKESとリバイバル・マーケティング
  8. KISSとキャラクタライズ
  9. METALLICAとピボット
  10. OASIS、BLURと対立の構図
  11. MOGWAIとニッチャー戦略

多くの場合、アーティスト当人に自覚はなく、後から考えてみると、というものがほとんどでしょう。しかし、彼らが成功した要因を考察することは、マーケティング戦略を発想する上での良いヒントにもなりえます。また、自分の所属する会社や、扱っているサービスが、どのアーティストの戦略に近いかを思い巡らすことは、音楽好きであれば、それなりに楽しめることなのではないでしょうか。

是非、楽しみながら読んでみてください。

ケース1:RADIOHEADと破壊的イノベーション

ロックのフォーマットを逸脱した変化で話題になった『Kid A』収録の” Idioteque”。

最新作『The King of Limbs』でも彼らのイノベーティブな精神は健在。

1992年にデビューしたRADIOHEADのキャリアで特徴的なのは、自ら築いたフォーマットを破壊し、アルバム毎にその印象を大きく変えたことです。1st『Pablo Honey』、2nd『The Bends』こそメロディ主体のギターロックでしたが、プログレッシブ・ロック的な解釈を取り入れて大きく変化した1997年の傑作『OK Computer』あたりからその実験性は加速し、続く『Kid A』ではポストロック、エレクトロニカに急接近、『Kid A』の双子アルバムといわれた『Amnesiac』ではジャズの要素も取り込んでいきました。

驚くべきは、それらの変化が彼ら自身の音楽性の話だけに留まらず、無名だった他のアーティストに注目が集まったり、RADIOHEADの影響を受けたフォロアーを生み出したりと、常にロックシーンに衝撃を与える変化であり続けたことです。『Hail to the Thief』以降はイノベーションのスピードもやや鈍化した印象がありますが、最新作『The King Of Limbs』ではダブステップを取り入れるなど、常に変化し続ける活動方針は今も変わっていません。

一度引き起こすだけでも難しい破壊的イノベーションを、連続して引き起こすというのは至難の業です。しかしそれを実現できたものには、強固なブランド形成が約束されます。例えば、かつてのソニーはまさにそういう存在でした。ウォークマンを筆頭に、カテゴリーキラーとなるヒット商品を立て続けに世に送り出し、世界に誇る破壊的イノベーションの象徴的な企業となりました。

21世紀に入ってこのイメージが強いのは、なんといってもアップルでしょう。特にスティーブ・ジョブス存命時のアップルは、iMac、iPod、iPhone、iPadと、各カテゴリのスタンダードを刷新する製品を立て続けにリリースし、現在に繋がる強固なブランドに繋がっています。(現在のアップルは破壊的イノベーションというよりは、持続的イノベーションに舵を切っており、これが昨今のアップルブランドに悪影響を与えている面もあるのではないでしょうか。)

破壊的イノベーションを引き起こすことができれば、単なる顧客という以上のファンを生み出すこともできます。ソニーにもかつてはソニーファンというファン層が存在し、RADIOHEADやアップルにも、時に「信者」と表現される強力なファンベースが存在しています。これらロイヤリティの高いファンによってブランドは守られ、より強固になっていきます。SNSなどで情報が簡単に発信できるようになった現在では、その傾向はより強くなっているといえるでしょう。

破壊的イノベーションを中心に据えた戦略は簡単に真似できるものではないですが、困難であるからこそ得るものも大きい、最強のマーケティング戦略といえるのではないでしょうか。

ケース2:AC/DCと不変性

AC/DC最大のヒット作『Back In Black』。このリフは誰もが聴いたことあるはず。

30年以上前のライブ映像を観ても、基本的な演出は今とほとんど変わっていない。

オーストラリア出身のAC/DCは、多くの日本人には馴染みが薄いアーティストかもしれませんが、現在でもツアーを組めばスタジアムクラスの会場をソールドアウトにできる世界的なモンスターバンドの一つです。意外に知られていませんが、1980年の大ヒット作『Back In Black』はこれまでに世界で二番目に売れたアルバムだったりします(一番はマイケル・ジャクソンの『Thriller』)。

そのAC/DCの特長といえば、印象的なギターリフを中心に展開するシンプルなロックンロール。これはデビュー以来ほとんど変わっていません。彼らは現在でも数年おきにニューアルバムを発表していますが、そのたびに「何も変わらない、いつものAC/DC」と最大限の賛辞を込めて評されます。ライブに関しても、大砲や地獄の釣鐘、アンガス・ヤングのストリップショーなど、いつも変わらぬお約束の連続でオーディエンスを楽しませてくれます。

AC/DCのようにブランドを堅持し、不変であることも、マーケティング戦略のあり方の一つです。例えば、製品としてのコカ・コーラブランドはまさに不変性によって培われてきたものです。独特のフォルムとエンジンへのこだわりを貫き続けるハーレーダビッドソン、室町時代から続く老舗お菓子メーカー虎屋などもまた、同様の戦略を取っているといえます。一方、これらのブランドにとって変化とは、ブランドに傷をつけるリスクと表裏一体です。例えばかつて、ペプシの追従に焦ったコカ・コーラが味の調合を一度変えたものの、ファンから大顰蹙を買い、味を元に戻すという出来事がありました。不変性を求められているブランドが変化をして失敗した、象徴的な事例です。

ちなみに、AC/DCは変わらないといわれながらも、実は細部のサウンドプロダクションは時代の流行に合わせてアップデートされています。同様に伝統を謳うブランドも、本質は変わらずとも、変化する時代に合わせた細部のアップデートは不可欠です。コカ・コーラも、味は変わらずとも、パッケージや販売戦略は時代に合わせて進化しています。この「不変と思わせながら実は時代に合わせている」というのが、不変性をうたう戦略の肝なのではないでしょうか。

ケース3:U2とコーズ・マーケティング

U2最大のヒット作『Joshua Tree』のオープニングを飾る名曲” Where The Streets Have No Name”。

社会派としてU2を一躍有名にした初期のヒット曲”New Year’s Day”。

1980年にデビューしたアイルランドが誇る世界的ロックバンドのU2。アルバムの総売り上げは1億7,000万枚、グラミー賞獲得数は22におよび、2011年にはFOBUS誌に「最も稼いでいるミュージシャン」に選出されました。一向に人気が衰えないのは、強固なU2ブランドが確立されている証拠でしょう。

U2の特長といえば、エモーショナルなボノのヴォーカル、独特のディレイが印象的なジ・エッジのギタープレイなど挙げるとキリがないですが、サウンドと同じくらい強く印象付けられているのが、彼らが社会派バンドであるという点ではないでしょうか。彼らの社会性は、歌詞に思想的なメッセージが込められているというだけではありません。発展途上国を支援する非営利団体の設立や、エイズ支援活動、貧困撲滅運動といったチャリティーへの参加など、社会貢献活動をかなり積極的に行っていることでも知られています。

このように事業で得た収益を社会に還元することで、ビジネスとしての正当性や、社会における存在意義を際立たせるマーケティング戦略は、コーズ・マーケティングと呼ばれており、多くの企業で試みられています。例えばP&Gは「すべての人によりよい暮らしを」というミッションを掲げていますが、これは単に製品のコンセプトとなっているだけでなく、世界中での社会貢献活動の指針となっています。このことは企業活動の正当性を証明し、そのブランドに説得力と必然性を与えます。健康や子供の成長に悪影響を与えていると言われがちなマクドナルドは、病気の子供を支援するドナルド・マクドナルド・ハウスの運営や、食育支援などを行い、ネガティブなイメージを払しょくするような社会貢献活動を行っています。

こういった社会貢献活動を行う際に、それが自然な文脈で行われているということは非常に重要なポイントです。U2は、紛争地のアイルランド出身であるというバックボーンが、社会派バンドであることの強い説得力となっています。このことは企業活動にも当てはまります。滅私奉公的な社会貢献は持続的な活動になりませんが、あまりにも強くセールスがチラつくと、逆にブランドに傷をつける可能性もあります。コーズ・マーケティングに取り組む場合には、その必然性には十分に注意しなければならないことも、U2は暗に教えてくれています。

ケース4:NIRVANAとポジショニング戦略

90年代以降のロックのトレンドを一気に変えた”Smells Like Teen Spirits”。

NIRVANAが火をつけたグランジのムーブメントは、ファッションにも飛び火した。

91年のメジャーデビュー作『Nevermind』と大ヒット曲”Smells Like Teen Spirits”でロックのトレンドを塗り替え、「NIRVANA以降」「NIRVANA以前」などという言葉が普通に使われるほどに影響を与えたNIRVANA。1994年にカート・コバーンが自殺してその活動に終止符が打たれましたが、未だ伝説的なアーティストとして絶大な人気と影響力を誇っています。

彼らの音楽性は、PIXIES、MELVINS、SONIC YOUTHなど、当時アンダーグラウンドで活動していたオルタナティブ・ロックの影響下にあるもので、楽曲のキャッチーさなどで優れた面があったにせよ、驚くほど革新的なサウンドというわけではありませんでした。しかし、80年代を彩った華やかなロックに対し、NIRVANAのダークなロックは異質かつ新鮮なものとして映り、注目を浴びることになります。つまり、サウンドが革新的でなくとも、メインストリームに対してオルタナティブな位置にうまくポジショニングできたため、時代を変える音になりえたのです。

マーケティングを考える時、性能やデザイン以上に、どのカテゴリのどこにポジショニングするか、というのは非常に重要な視点です。例えば、ダイソンの「羽のない扇風機」は、ポジショニングの妙で売れたといっても過言ではありません。あの製品は、考えようによっては、単なる変わったデザインの高機能送風機であり、そもそも扇風機ではありません。しかし製品を「扇風機」カテゴリに投入し、「羽がない」というユニークな位置にポジショニングすることで、話題を集めることができました。

このようなポジショニング戦略を考える際、ただ単に奇をてらった位置にポジション取りをするのではなく、きちんとニーズが存在する場所を狙うことが求められます。「羽のない扇風機」は、環境に配慮しながらもデザイン性が高い家庭用の冷却器がほしい、という潜在ニーズにうまくはまり、ヒットしました。NIRVANAも、華やかで肥大化するロックに刺激を感じなくなったリスナーの潜在ニーズにうまくはまった結果と言われています(その背景には、湾岸戦争による暗いムードが影響を与えているという説もあります)。

ただ単に、天邪鬼なポジションを取ったサービスやアーティストの多くが、ヒットすることなく市場から姿を消していることを考えると、市場の空気を読むこのバランス感覚こそが、ポジショニング戦略の肝であるともいえます。

ケース5:LINKIN PARKとフォロアー戦略

デビュー当時のLINKIN PARKは、典型的な当時流行のラップを取り入れたニューメタル路線。

映画『トランスフォーマー2』の主題歌”New Divide”。すでに典型的なニューメタルではない。

LINKIN PARKが登場した2000年当時、KORNやRAGE AGAINST THE MACHINE、LIMP BIZKITらの成功によって雨後のタケノコのように登場したミクスチャーロックやニューメタルなどといわれるバンドたちが、ヒットチャートを席巻していました。そんな中、同じくニューメタル路線でデビューしたLINKIN PARKに対しては「またこの手のバンドか」というネガティブな声も少なくありませんでした。しかし現在、彼らは世界で圧倒的な人気を誇るビッグネームの地位を確立するまでになっています。

成熟しきっている市場にフォロアーとして参入しながら、なぜ彼らはこれほどの成功を収めることができたのでしょうか。それはなによりも、機能面で圧倒的優位に立っていたからでしょう。つまり、「良い曲を提供する」という当たり前のことを、うまくやってのけたということです。売れる(=リスナーに喜ばれる)要素を盛り込んだ彼らのデビューアルバムは、隙のない完璧に機能的なアルバムでした。ニューメタルが成熟し、刺激を失って下降線を描き出したその瞬間、LINKIN PARKは圧倒的に高品質で、洗練させた作品を生み出すことで、その存在価値を輝かせることができたのです。

成長市場では、シェアが低くても利益を得ることができるため、フォロアーの戦略をとる企業は少なくありません。しかし、その中で成功を収め続け、フォロアーからマーケットリーダーに駆け上がれる企業はごくわずかです。その数少ない企業の一つは、グーグルでしょう。ITの巨人となったグーグルにはイノベーティブな印象があるかもしれませんが、実際の彼らはフォロアー戦略の達人です。彼らはイノベーターとして新しいサービスを投入することは実はあまりなく、むしろ、高度な技術力と洗練されたユーザ・インターフェースで先行者を圧倒し、殲滅するのを得意としています。

市場の寡占が進み、成熟しきってしまうと、フォロアーであり続けることは難しくなります。LINKIN PARKは、3rdアルバム『Minutes To Midnight』で音楽性を変えて、より一般的なロック市場にシフトしました。例えばSNS市場におけるフォロアーとして登場したフェイスブックも、アカデミック市場からスタートしつつ、拡大期には「いいね!」などの独自機能を搭載して、フォロアーからマーケットリーダーへと変貌していきました。このように、継続的に市場に残っていくためには、いずれはフォロアーからの脱却を求められることを、LINKIN PARKの成功からうかがい知ることができます。

ケース6:BON JOVIとブランド・エクステンション

カントリー市場にターゲットを絞って成功した『Lost Highway』。そのタイトル曲。

BON JOVIといって思い浮かべるのは、やはりこういうハードロックナンバーだろう。

BON JOVIといえば、80年代を代表するハードロックバンドというのが一般的な認識でしょう。事実、彼らの商業的なピークは80年代にあり、1986年のアルバム『Slippery When Wet』は世界で3,000万枚、1988年の『New Jersey』は世界で1,800万枚を売り上げています。

しかし、マーケティング的に注目したいのは、2007年にリリースされた『Lost Highway』というアルバムです。実はこの作品は、カントリー市場を狙って制作されたもので、戦略が功を奏した米国市場では一定の成果を上げ、『New Jersey』以来の全米チャートNo.1に輝きました。

既に成功しているブランドが別カテゴリに新規参入することは、ブランド・エクステンションと呼ばれ、よく行われる戦略の一つです。スポーツ専門用品からファッションブランドへ進出したリーバイスやナイキ、車メーカーとしての技術を転用したプジョーの自転車など、過去にブランド・エクステンションを行った企業は多く存在します。

このブランド・エクステンションには、メインカテゴリは保持したまま、サブカテゴリとして参入するケースと、メインカテゴリそのものを新カテゴリにスイッチしてしまうケースがあります。BON JOVIに関しては、次作で再びハードロック路線に舞い戻っていることから、結果的に前者、つまりハードロックというメインカテゴリは残したまま、『Lost Highway』という新製品で、カントリーというサブカテゴリを狙った構図になっています。

ブランド・エクステンションは、大きな成長が見込めなくなったブランドが行うことが多いですが、一方で拡張に失敗するケースも少なくありません。成功のポイントは、過去の資産をうまく使うことができるか、という点でしょう。BON JOVIには、過去に”Who Says You Can’t Go Home”という曲がカントリーチャートで1位になるという布石がありました。こういった資産を活かした上での変化であったため、成功に結び付けることができたのです。

同様にブランド・エクステンションを行う際には、過去のブランド資産の上手な活用が求められます。成長市場というだけで、資産を活かせないカテゴリに唐突にシフトしても、ブランドが失墜するだけである、ということを忘れてはいけません。

ケース7:THE STROKESとリバイバル・マーケティング

THE STROKESのノスタルジックでシンプルな作風が、ロックンロール・リバイバルを引き起こした。

往年のガレージロックと異なり、THE STROKESのロックはモダンで洗練されている。

ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで活動をしていたTHE STROKESは、2001年リリースの『Is This It』が大ヒットし、一躍世界的なバンドに躍り出ました。彼らが有名になったのは、単に商業的に成功というだけでなく、ガレージロックをベースにした彼らの音楽性が、「ロックンロール・リバイバル」と呼ばれる新しいムーブメントを生み出したためです。THE STROKESがいなければ、THE HIVESがスウェーデンから世界的バンドになったり、THE LIBERTINESやARCTIC MONKEYSのようなバンドが英国から登場したりすることもなかったかもしれません。

ガレージロックとは、60年代にアメリカで勃興したロックの一ジャンルで、THE BEATLESやTHE ROLLING STONESの成功に触発されたセミプロの若者たちがガレージで演奏した荒っぽくプリミティブなロックがその始まりといわれています。こうしたガレージロックは世界中のアンダーグラウンドなロックシーンでは脈々と受け継がれつつも、商業的に大きく成功したことはそれまでにありませんでした。THE STROKESは、その過去の遺産を引っ張り出してきて、商業的な成功に結びつけたバンドと言えます。

市場が成熟し、新しい商品開発が難しくなると盛んになるのがこの手のリバイバルです。フルーツパンチなどの80年代の清涼飲料の再発売や復刻ビールなど、ここ数年様々な業界で乱立しているリバイバル商品は、その最たるものでしょう。また、古いCIに戻したJALの戦略も、リバイバル戦略の一つと言えるかもしれません。

このリバイバルにも、2つの種類があります。一つは、過去を忠実に再現し、旧来のファンの懐古心に訴えるタイプ。もう一つは、新しいファンに新鮮な驚きを与えるために、あえて古い意匠を利用して取り込むタイプです。例えば各カメラメーカーが発売している、最新のミラーレス一眼にあえてアナログカメラのようなデザインを施すのは、後者のタイプです。THE STROKESの場合も、ガレージロック風のテイストが、若いファンに新鮮な驚きを与えたという意味で、後者のタイプといえます。逆に過去に成功したバンドの再結成などは、前者のタイプといえるでしょう。

旧来のターゲットを狙うリバイバルでは、過去に獲得したファンという安全パイが存在する反面、市場としての広がりは弱く、瞬間風速的な盛り上がりになりがちです。一方、新規顧客を引き寄せるためのリバイバルでは、ターゲット層が異なるがゆえに、過去のどの部分を切り取り、どの部分をアップデートするかのバランス感覚が難しいといえます。リバイバルだからといって、過去の成功に安易に乗っかるのではなく、現在の市場を見極め続ける審美眼は、やはり持っておかなければいけない、ということになります。

ケース8:KISSとキャラクタライズ

メイクを復活させた1996年のリユニオンツアーは大成功に終わった。

耳馴染みの良いキャッチーさこそ、メイクをも超えるKISS最大の武器。

KISSといえば、現在も絶大なる人気を誇る大物ロックバンドの一つです。アルバム・シングルの総売り上げは全世界で1億枚を超えているといわれています。

70年代のロックシーンは、本格的な多様化が始まった時代です。ブルースを強く打ち出したAEROSMITH、オペラチックな世界観と中性的なビジュアルが人気を博したQUEENなど、数多くの新しい才能が生まれる中、KISSはド派手なメイクでその個性をアピールしました。KISSのメイクは、ただ見た目を派手にしているだけではなく、メンバーそれぞれに細かい設定が施されています。つまりこれは単なるメイクではなく、彼らをキャラクターに仕立てあげ、KISSの世界観を増幅させる舞台装置でもあったのです。

ちなみに彼らは過去に、メイクを取って素顔で活動していた時期があります。しかし、徐々に人気は停滞していき、結局、1996年のオリジナルメンバーでの再結成とともに、メイクを復活。この時に世界規模で行われたリユニオンツアーは大成功を収めました。やはり、KISSといえばあのメイクということなのでしょう。

アフラックのアヒル、マクドナルドのドナルド、ソフトバンクの白い犬などの例を上げるまでもなく、キャラクタライズは、企業のマーケティングやブランディングに多く活用されています。近年各地で大流行しているご当地ゆるキャラも、キャラクタライズの一つといえるでしょう。サービスを一つのイメージに束ねにくいもの、特徴が複雑で説明が難しいものは、差別化を図る手段として、キャラクタライズも一つの選択肢になりえます。

ただし当然ながら、キャラクターの魅力は商品の魅力を体現していなければなりません。KISSも、ただメイクをして目立っていただけではなく、名曲、名盤と呼ばれる作品を次々とリリースし、大衆の心を掴んでいきました。彼らの楽曲は、それ単体でも成立するほど完成されており、彼らのビジュアルを伴わないCMや映画にも多く使われています。つまり、KISSという商品の核となる楽曲自体が、十分な魅力を備えたものでした。

キャラクタライズをマーケティングに取り込むためには、キャラクターに依存してしまうのではなく、商品やサービス自体の魅力がその核には必要であることを、KISSの成功から伺い知ることができます。

ケース9:METALLICAとピボット

ヘヴィ&スロウに路線変更してさらなる成功を収めたMETALLICA。

一方で、現在でも根強い人気がある初期の疾走ナンバー”Battery”。

METALLICAといえば、今ではすっかり世界的に有名なヘヴィメタルバンドになりましたが、彼らが登場した80年代の初頭には、時代を先取りした過激でヘヴィな作風故に「こんなのは音楽ではない」などと音楽誌に酷評されたこともありました。そんな彼らは当時一世を風靡していたMTVに頼らず、ライブとクチコミだけで知名度を上げていき、ついに1988年の『…And Justice For All』でビルボードチャートの6位まで上昇、”One”がグラミー賞を受賞しました。

しかし、彼らはこの後、さらなる大きな成功を体験します。キッカケとなったのが1991年にリリースされた『Metallica』、いわゆる「ブラックアルバム」です。ファストで大作志向だった彼らはここで方向性を一転、テンポが遅く、うねるようなグルーヴを効かせる作風に切り替えてきました。それまでのコアなファンからは批判も多かったこの変化ですが、結果的に世界中で2,000万枚以上の売り上げを記録し、90年代でもっとも売れたアルバムにまでなりました。また、この作風はモダン・ヘヴィネスと呼ばれる潮流を生み出し、PANTERAやMACHINE HEADのような新世代メタルバンドが商業的に成功を収める土壌を作り出したとも言われています。

IT系ベンチャーを中心に、数年前からピボットという言葉が浸透してきています。さらなる成功を求めて大きく方向転換を行うことですが、METALLICAのとったこの戦略もピボットの一つといえるでしょう。

ピボットの例でよく引き合いに出されるのがインスタグラムです。彼らは当初SNSでしたが、写真共有に特化して現在の地位を築きあげて大成功し、ご存じのように、フェイスブックに買収されるまでになりました。他にも、元々は出会い系サイトだったユーチューブ、凡庸なソーシャルサービスからクーポンサイトに変貌したグルーポンなど、ピボットのコストが比較的低いデジタル系のベンチャー企業を中心に、ピボットの成功事例が多数存在しています。

さて、一度目のピボットを大成功させたMETALLICAですが、その後、08年の『Death Magnetic』に至までピボットを繰り返し続け、結果、多くのファンが離れていってしまいました。ピボットをするには、「新たに獲得できる顧客>失う既存顧客」という構図を実現できなければ、当然売上は下がり、ブランドは弱体化していきます。METALICAのキャリアからは、ピボットの成功例と失敗例の両方の結末を、垣間見ることができます。

ケース10:OASIS、BLURと対立の構図

OASIS最大のヒット作『(What’s The Story)Morning Glory』のタイトルナンバー。

UKチャート上でOASISを撃退したBLURの” Country House”。

90年代を代表するイギリスのロックバンドといえば、OASISとBLURを真っ先に思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。90年代中期のイギリスのロックシーンを席巻したいわゆるブリットポップ・ムーブメントは、OASISが”Roll With It”、BLURが”Country House”を同時リリースした1995年8月14日にその頂点を迎えます。彼らは音楽性、ルックス、出身階級とあらゆる面がメディアで対比され、さらにOASISのメンバーがBLURを罵って敵意をむき出しにすることでその対立構図に拍車がかかっていきました。これを彼らが狙ったことかはさておき、結果的にはこの対立が相乗効果を上げ、お互いのセールスをさらに押し上げていきました。

競争を避ける戦略というものがありますが、一方、競争を逆手に取り、対立の構図を際立たせることは、商品やサービスにストーリーを生み出し、顧客の注目を浴びる機会を生み出します。アップルとマイクロソフト、コカ・コーラとペプシ、キリンとアサヒ、ソニー(PS)と任天堂などなど、競争市場においては、プレスリリースやプロモーション戦略、トップメッセージなどで、競合とライバル関係であることをあえて強調し、注目度を上げることが歴史的にも多く行われてきました。特にマーケットリーダーに挑戦する新規参入者は、リーダーに対するライバルの位置を獲得するのが、最初の目標となることも多いでしょう。

こういった対立の構図は、成長市場においては活況を生み出して市場がさらに拡大し、双方が利益を得ていくことが可能になります。例えば、現在の日本国内におけるスマートフォン市場の活況は、アップルとグーグル、さらには通信大手三社(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)の対立がさらなる注目を集め、相乗効果を生み出している面が少なからすあることでしょう。

ただし、市場が成熟すると、こういった対立が双方の脚を引っ張り、結果的に共倒れになるリスクが高まっていきます。専攻する地位を築いていたリーダーが、フォロアーに対するライバル意識をむき出しにすることで、逆にブランドイメージを貶めるリスクもあります。また、一方に弱いイメージが根付いていると、対立関係がうまく築けない場合もあります。

OASISとBLURにおいても、楽曲の質が明らかに劣るMENSWEARやNORTHAN UPROAR、あるいはキャラクターがまったく異なるPRIMAL SCREAMやRADIOHEADでは、この対立の構図は成り立たなかったでしょう。やはり、OASISとBLURでなければこの相乗効果は得られなかったといえます。このように、対立をマーケティング戦略にうまく組み込むには、実力が拮抗し、ライバルに相応しいと感じさせるイメージ作りが不可欠であることを、OASISとBLURは示唆してくれています。

ケース11:MOGWAIとニッチャー戦略

長尺の曲、単調なリズムの反復、静寂と轟音のコントラストが、MOGWAの基本スタイル。

最近はテレビドラマのスコアなども手掛けており、音楽性と活動の幅を広げている。

ブリットポップが終焉したのち、グラスゴーからひっそり登場したのが、MOGWAIです。今でこそ「MOGWAIタイプ」などといわれ世界中にフォロアーが存在するほどに浸透したインスト(歌がなくて演奏だけの音楽)の轟音ポストロックですが、彼らが登場した1990年後半のイギリスでは、MOGWAIは突然変異のような存在でした。

それ以前に商業的に成功したインストのロックといえば、ギタリストなどの卓越した演奏者によるテクニック志向の作品が、わずかに存在するのみでした。もちろん、90年代には既にシカゴやモントリオールを中心にした歌のないポストロックのムーブメントは存在しましたが、あくまで前衛音楽を好む愛好家の間での人気に留まっており、メジャーな世界での商業的な成功とは言い難いものだったと思います。そのような状況下では、MOGWAIのような非テクニック志向の抒情的なインストロックは、まさにニッチな音楽といえるものでした。しかし、MOGWAIはそのニッチな音楽性で、華やかなブリットポップに飽きた人々の潜在ニーズに訴えることに成功しました。

マーケットの中で競争の激しいメインストリームを避け、ニッチャーとして独自のポジションで存在するのも、マーケティング戦略の一環です。極めて細く痛みを感じにくい注射針で有名な岡野工業、メイク用の高級ブラシに特化している丹精堂、シートベルトの分野で世界的なシェアを誇るタカタなど、ニッチな分野で確固たる地位を築いている企業やブランドは驚くほど多く存在します。一般消費者にはあまり有名ではなくても、世界的には圧倒的なシェアを誇っていることも少なくありません。

ニッチャーの戦略は、競合が存在せず、ニーズが潜在化している市場をいかに見つけ出すかがポイントです。しかし一度成功し、ニーズが顕在化した段階では、先行者利益を活かして新規参入者といかに戦っていくか、という局面に移行します。MOGWAIがポジション取りをしているポストロックカテゴリーは、SIGUR ROSなどの成功で市場が拡大、MOGWAIタイプの轟音型ポストロック系のアーティストも、EXPLOSION IN THE SKYやGODSPEED YOU! BLACK EMPERORのカルト的な人気の高まりから、世界各国に増殖していきました。それに対してMOGWAIは、メロディやストリングスを大胆に導入したり、サウンドトラックのような領域に踏み出したりするなどして、ユニークな存在感を活かした活動を行い、現在においても確固たる地位を守り続けています。それは、この記事で取り上げた他のアーティストほどの巨大な商業的成功ではないですが、ニッチャーとしては十分すぎる成功です。

ニッチャーというと「戦わずに利を得る」戦略と考えられがちですが、企業やブランドが持続するためには、裏打ちする技術や知識、サービスの質の高さはもちろん、新規参入者を迎え撃つだけの優位性をどこまで築き上げることができるか、ということにも留意しなくてはならない戦略といえるでしょう。

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