説得力のあるデザインをするために

説得力。仕事をしていると求められるものです。

説得力のある会話。説得力のある資料。説得力のある論理。説得力さえ身に付ければ、仕事のほとんどはこなせちゃうんじゃないか、ってくらい強力なスキルです。

デザインも同じです。特にクライアントの存在する商業デザインには、「説得力のあるデザイン」が求められるものです。では、説得力のないデザインと、説得力のあるデザインとは、どこが違うのでしょうか?

説得力のないデザインは、だいたい考察が浅かったりします。一方、説得力のあるデザインは、色々なことを深く、広く考察したうえで、最終的なデザインに到達しています。浅い考察、深い考察を、もう少し分かりやすくすると、以下のように表現できるでしょう。

●浅い考察
→ Aという要望があった
→ それに対して、Bと思った
→ だから、Xというデザインにした(結論)

●深い考察
→ Aという要望があった
→ それに対して、Bと思った
→ しかし視点を変えると、Cかもしれない(視点の変化)
→ あるいは条件を変えると、Dかもしれない(条件の変化)
→ もしかすると、Bと思ったのは間違いで、本当はEなのかもしれない(自己否定)
→ しかし、Eに対して、ある人はF、ある人はGと評価するかもしれない(評価のふり幅)
→ Fと評価された場合に備えて、Hを考慮しなければならない(リスクヘッジ)
→ Gと評価される場合は、割り切ってしまい、考えなくてもいいかもしれない(割り切り)
→ そういう諸々を考えると、Yというデザインにするのがベストだと思う(結論)

浅い考察から生み出されたデザインは、あまりいろいろ考えていないので、否定的な評価や意見が出てくると、すぐに結論が揺らぎます。また、事前にあまり考えていないので、ディスカッションをしても良い議論にならず、クライアントの主観的な好みをひたすら聴くだけになってしまいがちです。

深い考察に基づくデザインは、あらかじめいろいろなことが考えられているので、結論に隙が少ないです。想定外のことが少なく、ちょっとした反論にびくともしません。また、事前に色々と考えているので、デザインにブラッシュアップが必要であっても、すぐに建設的な議論を展開することができます。こういう一連の思考を乗り越えたデザインに、人は説得力を感じます。

説得力を持たせられないデザイナーの結論への道程は、どちらかというと前者の「浅い考察」に留まっていることが多いでのではないでしょうか。結論に至るまでの頭の中の思考の体操が、まだまだ足りないのだと思います。

色々な経験を積むことで、深い考察はある程度できるようになります。しかし、流れに身を任せた学習では時間がかかるし、元々深く考える癖がない人は、それだけではあまり成長しないかもしれません。

その場合は、深い考察に至る思考のプロセスを自分なりに考え、チェック項目を作ってはどうでしょうか。一旦思いついたデザインについて、視点や前提条件を変えたり、自己否定を繰り返してから、結論を出すような、思考訓練をしてみるといいのではないでしょうか。