飛ぶ鳥から何を思うか

松下幸之助氏が言ったとされる話の中で、結構好きなのが、この話です。

一流の大将なり軍師は戦争をしても、大空を行く鳥の大群がばーっと散って逃げていくのを見て、何かそこに隠れている、そこに伏兵がいるんやなと察知できる。それで行ったらやられるから、そこをよけて通る。

それを、何も考えずに行ったら、伏兵がおって、ばーっとやられてしまう。そんな大将やったらあかんわけや。戦に負けるわけや。鳥が飛んできたところが、乱れて飛び去った。何で乱れたんやろ、何か下にいるんや。もしかしたら刀や槍や鎧を着た人間がうようよしとったから、びっくりしたのかもしれない。

そういうことが、戦争やなくして、われわれの日常の生活、活動の上にもあるわけや。

『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
(述)松下幸之助/(編)松下政経塾

松下政経塾において、リーダーシップ論として語られた話のようですが、もっと多くのことに当てはまる話だと思います。

例えば、日常の些細な出来事も「なぜだろう?」と考える人と、ただ漠然と起こったことだけを眺めている人とで生まれる、大きな差。

仕事ができる人は大抵忙しいものです。暇な時間はごくわずかです。それでもできる人は、新しい情報に敏感で、一つのことから10のことを発想します。一つには、鳥が飛ぶのを見て、敵が潜んでいることまで思いを巡らせることができる人だからなんだと思います。

一方で、飛ぶ鳥を見て、「あ、鳥が飛んだ」としか思わない人は、それだけのことしか経験しません。実際の生活で、それで命を落とすことはないでしょうが、その経験を自分の糧にすることはできないでしょう。

もう一つ、物事を素直に捉えることの大切さも、この話は教えてくれます。鳥が飛んだことに気付く人でも、「それはおれには関係ない」「おれはおれのやり方でやる」「おれの作戦に間違いはない」「以前勝てた作戦だから今回も大丈夫」といって進軍する大将や軍師だと、やはり戦には負けてしまいます。

私たちの仕事というのは、基本的には人々の暮らしになんらかの形で繋っています。ということは、普通に生活していても、仕事に繋がることを色々経験しているはずです。仕事の中であれば、さらに濃い密度で学ぶ機会が発生しているはずです。

それなのに人によって大きな差がついてしまうのは、「鳥が飛んだことから思いを巡らせることができるか」「鳥が飛んだことの意味を素直に受け取れるか」というところに、起因しているのかもしれません。