AWAを3週間使った感想と音楽サブスクリプション雑感

エイベックスさんとサイバーエージェントさんが立ち上げた音楽アプリAWAを使った感想と、サブスクリプション型音楽サービスに関する考察をまとめてみました。Spotifyをはじめとする他サービスは使ったことがないため、憶測含みなのはお許しください。

ちなみに私は、ダウンロードやレンタルCD、CD購入などで、20~30枚のアルバムを毎月入手しており、聴いているのはほぼ洋楽というリスナーです。なので、一般リスナーと使い方や感じ方が違っている部分が多々あると思います。その点は間引いて解釈いただけると幸いです。

テーマは以下の6つです。

  1. 曲数は十分か?
  2. 良質なリスナー体験ができるか?
  3. プレイリスト共有は楽しいか?
  4. サブスクリプション型サービスの位置づけとは?
  5. リスナーの分類
  6. カスタマージャーニーと課題

曲数は十分か?

現時点での曲数は公表されていませんが、2015年末までに500万曲揃えるということなので、今はそれ以下ということでしょう。海外サービスでは2000~3000万曲レベルでの戦いになっており、それと比べるとかなり少ないといえます。

洋楽に関して、メジャーなアーティストは案外揃っているというのが第一印象でした。しかし少し使ってみると、ディスコグラフィの欠落が多いことに気付きます。また、英語とカタカナで表記が違うだけの同一音源や、Deluxe Editionとの重複などもあります。AWAに限らずですが、実際に聴ける曲の種類は、公表される曲数よりも少ないと捉えておいた方がいいでしょう。

また、当然ながらインディ系はやや手薄で、日本で人気の高いベガーズ・グループ系で聴けないアーティストも多く、あるいはエピタフ・レコードの作品は全滅状態だったりします。

しかし邦楽はさらに厳しい状況で、有名どころで聴けないアーティストは非常に多いです。もともと邦楽の大量配信は難しいと思っていたので、むしろ予想よりも色々聴けるとは思いましたが、それでも日本の音楽をたくさん聴きたい人には物足りないのではないでしょうか。

なお、何千万曲も一人で聴けないので、曲数は重要ではないのでは、という意見もあると思います。確かに個で考えるとそうなのですが、ビジネスを考えると、集団を構成する様々な個の趣味趣向に応えることが求められます。特にネットワーク効果に頼る類のサービスでは、利用者数を増やすことは至上命題となるため、そこに大きな影響を与える曲数は、非常に重要なファクターになるでしょう。

良質なリスナー体験ができるか?

UIも秀逸で、音質もいいため、プレイヤーとしての機能は悪くありません。また定番機能ではありますが、やはりラジオは重宝します。AWAではアーティストを指定することで、iTunesのGeniusやLast.FMのように自分好みのラジオステーションを作ることができます。

ただしこれもAWAに限らずですが、以下のような理由で良質なリスナー体験とは言い切れないところがあります。

  1. 通信量に制限がある
  2. 既存のライブラリと共存できない

通信量の問題はやはり大きく、オフライン機能がなければ、どんなに曲数を揃え、利用料金を低くしても、いつでもどこでも好きなだけ聴ける、とはならないでしょう。また、今までに購入した曲と一緒に聴けないことも課題の一つでしょう。

ちなみにApple Musicの強みは、この2つを解決しうることです。オフラインモードを駆使すれば通信量を気にせず好きな時に好きな場所で聴くことができます。iTunesを共通プラットフォームにすることで、クラウド上の音楽データとライブラリと統合された、真の「聴き放題」を提供できる可能性もあります。

Apple Musicにはイノベーションがないなどと否定的な意見もありますが、デバイス、OS、販売チャネル、データ管理、プレイヤーを握っているAppleと他企業では、同じ機能を提供しても実現できるUXがまったく異なるということは、忘れてはいけない点でしょう。

プレイリスト共有は楽しいか?

Spotifyではプレイリスト機能が非常に充実しており、サービスの魅力となっています。この例にもれず、サブスクリプション型音楽サービスのアクティブ率を高めるためには、プレイリストの充実は不可欠です。

AWAでは、1つのプレイリストで8曲しか共有できませんが、プレイリストの質を高めるうえで、これはとてもいい制約だと思います。また検索からプレイリストへの追加も行いやすく、この点においてはiOSがデフォルトで提供している音楽プレイヤーよりも遥かに優れています。

しかしながら実のところ、プレイリストを共有しようというモチベーションは、すぐに下がってしまいました。その一番の理由は、プレイリストを公開してもほとんど聴かれないためです。

例えば私は最初に、『メロディが綺麗なEDM』(カルヴィン・ハリス、アヴィーチー、デヴィッド・ゲッタなど)、『雨の曲』(マドンナ、ブルーノ・マーズ、ガンズ・アンド・ローゼズなど)という、それなりに人気のあるアーティストや曲をセレクトしたプレイリストを作成しましたが、1週間たっても、5回も聴かれませんでした。プレイリストを共有しようと思う人にとって、これはかなりのガッカリ体験です。

プレイリストが聴かれないのは、タイトルの付け方、選曲センス、競合するプレイリストの問題もあるでしょうが、新着プレイリストをアピールする場がないというのが大きいでしょう。

人気プレイリストはホームでTOP100まで表示されていますが、これは一定期間の再生回数を元にした先行者に有利なアルコリズムです。ジャンル別プレイリストも存在しますが、同じく再生回数基準のため掲載ハードルは高く、いきなり自分のプレイリストを送り込むのは不可能でしょう。

フォロアーへの通知機能はありますが、現状、残念ながらフォロアーが付くことはほとんどありません。例えば現時点で私の全プレイリストの再生回数は4万回を超えていますが、私をフォローしているユーザはわずか40人あまりです。つまり、再生からフォロアーへの転換率は0.1%ほどで、これはなかなかハードなゲームです。

結局、プレイリストを公開しても、検索でたまたまヒットされるのを待つしかないわけです。しかし、検索結果の順位も再生回数が影響するため、タイトルのつけ方や選曲を工夫しない限り、聴いてもらえる確率はかなり低いと言わざるを得ません。

ちなみに私はこの仕組みを意識して、「ONE OK ROCK好きにオススメの洋楽」というシリーズもののプレイリストを公開しました。人気のONE OK ROCK目的のリスナーがいることを想定したものです。エモやポストハードコア系中心の、AWAの中では比較的マニアックなプレイリストですが、結果、本エントリー公開時点で、1つめのプレイリストで再生回数が8,387回、2つ目で7,723回、3つ目で21,510回を記録することができました。ただ、再生回数が伸びることも最初は楽しいですが、それ以上のリアクションは何もないため、気持ちは少し冷めてしまいました。

大多数の人は、気軽にシェアをして、気軽にリアクションをもらいたいのだと思います。見知らぬ人の無言の「いいね」を100個もらうより、心の通ったコメントを1つもらう方がうれしいでしょう。しかし残念ながら、現在のAWAはそういった希望には応えにくい仕様といえます。

サブスクリプション型音楽サービスの位置づけとは?

サブスクリプション型音楽サービスについて、その位置づけを理解するためには、もう少し詳しく「音楽の楽しみ方の系譜」を理解しておく必要があります。

音楽の楽しみ方は、「聴く」「演奏する」「作る」「知る」の4つに大別され、メディアやテクノロジーの進化から、様々な形態に進化していきました。

音楽の系譜

ご覧のように、サブスクリプション型音楽サービスは、より広範囲に影響を与えるものです。支配的な論調である、デジタル配信の後継サービスという位置づけは局所的な見方であり、さらにいえば、曲数とUXの問題ですぐに取って代わるのは難しいでしょう。現時点ではむしろ、レンタルCD、あるいはYouTubeやネットラジオの後継ととらえるのが現実的です。

もちろん、近未来的には曲数の問題はやがて解決され、「聴く」楽しみ全般がサブスクリプションに収斂される可能性は確かにあります。しかしこのことは、遅かれ早かれ、曲数ではない別の要素での付加価値提供がサービスに求められてくるということを意味します。

その別の要素というのが、編集の楽しみ、ソーシャル的な楽しみでしょう。また、デバイスを変えれば、カラオケやDJも影響範囲に含まれてきます。そして、どの分野を強みとするかが各社の戦略になるでしょう。

AWAに関しては、王道の「聴く」×「知る」型のアプリと思いますが、今は曲が聴けるということに強く依存しており、「曲を聴く以外のプラスアルファの付加価値」の確立が、サービスとしての課題ではないでしょうか。

リスナーの分類

サブスクリプション型音楽サービスを語るうえでは、音楽リスナーの理解も不可欠です。以下は、私なりにまとめた音楽リスナーのセグメンテーションです。

リスナーの分類

1. 音楽オタク

どっぷり音楽にハマっているリスナー層です。音楽がアイデンティティの一つになっており、消費も積極的で、強いこだわりを見せます。特定アーティストに熱心なだけでなく、ジャンルや音楽全般に多大なる関心を示します。新しい情報の獲得欲求が高く、雑誌やサイトでの情報収集も行い、マイナーなアーティストを見つけ出す力もあります。LTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)が高く非常に貴重な存在ですが、数が少ないため、経済的なインパクトはそれほどありません。ただ、イノベーター/アーリーアダプターとして市場の立ち上げを牽引する力があります。似たような音楽オタクとの交流を好み、良い音楽を紹介するキュレーション活動も積極的で、誰かの音楽ライフに関与することに喜びを感じます。プレイリストの共有をもっとも積極的に行うのがこの層と考えられます。

2. 特定ファン

音楽への熱量は高いが、それが特定のアーティストだけに向いているリスナー層です。音楽オタク同様、音楽がアイデンティティになっており、経済的・時間的投資に躊躇はありません。ただし、他アーティストとの出会いには消極的です。不特定多数への共有も積極的ではなく、むしろにわかファンの増加を嫌う傾向もあります。アーティストやレコード会社の視点では重要な顧客になりますが、音楽市場全体で見ると、特定アーティストにしか消費しないため、必ずしもLTVが高くはありません。サブスクリプション型音楽サービスでは、ターゲットにしにくい存在です。

3. 音楽ファン

音楽を日常の楽しみの一つとしているリスナー層です。自己紹介の趣味の欄の2~3番目に「音楽」と書くような人たちです。興味があるアーティストなら消費も積極的に行いますが、主体的に音楽情報を収集することはなく、マイナーなアーティストにはあまり詳しくありません。話題性や、音楽に詳しい友人のすすめなどが消費のキッカケになりやすいです。音質の良さやディスコグラフィ集めにも興味がなく、LTVはそれほど高くありませんが、数が多いので、重要なセグメントになります。刺激が継続されると音楽オタクに、刺激が継続されないとつまみぐいリスナーになるため、このセグメントをいかに増やすかが、音楽市場のカギを握っています。

4. つまみぐいリスナー

音楽は嫌いではなく、キッカケがあれば聴きますが、自分から積極的には関わりません。音楽以外に多くの優先事項があり、音楽のことはあまり考えていません。世間で話題になっていて耳に入ってきても、聴くまでに至らないことも多いです。ただ、家族や恋人、仲のいい友達の推薦やライブやクラブの体験など、人間関係経由の刺激から音楽に興味を持ち、購入に至ることがあります。人の趣味に影響され、いきなりマニアックなアーティストに行くことがあるのも、この層の特徴です。音楽が嫌いなわけではないので、継続的な関わりで、音楽ファンや特定ファンに成長する可能性があります。

このような4つのセグメンテーションですが、音楽が売れていた時代と現在とでは、以下のような分布の違いがあると考えられます。

リスナーの推移

娯楽の選択肢が少なく、皆が同じメディアを見ていた時代では、テレビCMやドラマタイアップ、音楽番組などのマスメディアでの露出増により、音楽を共通言語化し、音楽ファンを増やすことができました。また、音楽ファンの数も多く、音楽オタク、特定ファンとのテープ交換などで刺激を与え合う機会もありました。

しかし現在では、娯楽の選択肢が増え、人々が見ているスクリーンも多様化したため、音楽は共通言語にならなくなりました。一人でも楽しめる音楽オタクや特定ファンは変わりませんが、環境変化の影響を受けやすい音楽ファンは激減し、多くがつまみぐいリスナーに移行したのではないでしょうか。また、音楽ファンが減ることで、音楽オタクや特定ファンとの接点もなくなり、刺激を与え合う機会が減少し、市場全体がますます停滞したとも考えられます。

このような中で、「聴く」×「知る」型のサブスクリプション型音楽サービスに求められる役割は、デジタル技術を使った新たな音楽体験を提供することで、音楽ファンを増やし、現在よりも良好な市場構造に戻すことではないかと思います。サービス単体で収益を上げるのは二の次で、音楽市場の活性化が本来の目的と考えているのではないでしょうか。

そこをゴールとして考えると、サービス成功の鍵となるのは、音楽オタクと音楽ファンの一部に存在する「プレイリストを共有したい」と考えているユーザ(共有欲求ユーザ)と、音楽ファンとつまみぐいリスナーに存在する「いい音楽があれば聴きたい」と考えているユーザ(聴取欲求ユーザ)にアプローチし、うまく結びつけ、活性化させることでしょう。

カスタマージャーニーと課題

上記の仮説に基づくと、アプリというのは、共有欲求ユーザと聴取欲求ユーザの行動ステージに沿って機能やコンテンツが提供される必要があります。それをまとめたものが、以下のカスタマージャーニーです。

横軸にステージを配置し、縦軸にDoing(行動)、Thinking(考え)、Feeking(感情)、Satge Goal(そのステージでのユーザ体験のゴール)、Function/Contents(機能/コンテンツ)を配置しています。Function/Contentsに書いてある○はAWAで提供されているもの、△は提供されているが不十分と考えられるもの、×は提供されていないものを示しています。

まずは、共有欲求ユーザのカスタマージャーニーです。

共有欲求ユーザのカスタマージャーニー共有意欲の高いユーザには、まずはアプリ内でプレイリストを共有したい、と思わせる必要があります。それが「きっかけ」のステージです。現在のAWAでも基本機能は提供されていますが、接点となるプレイリストのバリエーションを広げることで、共有意欲がさらに高まる可能性があります。

「作る」のステージに移行してからは検索とリスト化がメインです。当然ながら、ここの満足度には曲数が影響しますが、それ以外にも、作成を補助する機能や、共有後の期待感を刺激するような機能があると、利用率はより高まると考えられます。

「共有する」のステージにおいて、現在の仕様では、共有できる場が少なく、どこに共有されたか確認手段もありません。それにより、ユーザの不安が拡大したり、期待感が空回りしたりする可能性があります。

「反応をもらう/返す」においても、プレイリストを共有するユーザの期待に応える、十分なフィードバックを得られる仕組みが必要でしょう。もちろん、運用コストとのバランスと、コミュニケーションの濃度設定も重要です。あまりにも濃いコミュニケーションが可能になると、トラブルやストレスの原因にもなります。個人的には、Instagram程度の軽微な交流がいい気がします。

続いて、音楽を聴きたいと思う聴取欲求ユーザのカスタマージャーニーです。

聴取欲求ユーザのカスタマージャーニー

聴取欲求ユーザにおいては、明確に聴きたい曲が存在するときの行動と、なんとなく音楽を聴きたいだけの時の行動が混在することに留意しなければなりません。また、アプリとしては、どちらかにフォーカスして機能提供をすることはできません。なぜなら、このような態度変容は短時間に同一ユーザ内で起こりえるからです。例えば、ある曲を求めて検索して聴いた結果、似たテイストの曲に浸りたいモードに入る場合もあれば、なんとなく音楽を聴こうと思ったけど、ある曲を耳にして関連曲を探し始める場合もあるでしょう。

つまりアプリとしては、聴きたい曲が明確なアクティブリスナー(積極的なリスナー)と、なんとなく音楽を聴きたいだけのパッシブリスナー(受動的なリスナー)の、両方に応えうるものにしないといけないわけです。

その上でカスタマージャーニーですが、まず「きっかけ」ステージは基本的にはサービス外で発生します。そのため、アプリ外での「きっかけ」の可能性を増やす機能や、「見つける」へのスムーズな移行を助けるような機能が有効となるでしょう。

「見つける」「聴く」のステージでは、アクティブリスナーとパッシブリスナーの行動に合わせた機能やコンテンツが必要になります。現状でも最低限の機能提供はされていますが、アクティブユーザの課題は曲数、パッシブユーザの課題はパーソナライズの幅と精度になるでしょう。例えば著名人や映画等とタイアップしたプレイリストや、共有ユーザを活用した良質なプレイリストの蓄積やリコメンデーション、さらには複数プレイリストの結合やシャッフル演奏があると、パッシブリスナーにとっては魅力的なサービスになりえるでしょう。

最後の「習慣になる」ステージでは、聴取体験のリピートに繋げなくてはなりません。お気に入り登録だけではなく、履歴を数値化してファン度を表してランキング化してゲーム的に競わせるなど、何度も利用することのベネフィットを提供する機能が効果的と考えられます。

上記のような様々なアイデアは、部外者である私がざっと考えたもので、運用や契約の問題などは一切考慮してない適当なものですが、市場でのポジショニングからユーザセグメンテーション、カスタマージャーニーとブレイクダウンして考えていくことで、本当に優先すべき機能やコンテンツが見えてくるのではないかと思います。

まとめ

色々と書きましたが、おそらくAWAの企画や開発をされた方の間ではこういう計画はとっくに存在し、優先順位や運用の問題などで見送っている、もしくは取捨選択しているだけではないかと思います。

ちなみに、この記事を書いている段階ではまだリリースされていませんが、伝え聞く内容から推測してもっとも強力なライバルはやはりApple Musicでしょう。前述のように、曲数が多いだけでなく、Appleだからこその良質なUXが提供できることに強みがあります。

一方、すでにサービスを開始しているLINE MUSICの強みは、既存のソーシャルグラフの中に音楽を放り込める点です。特につまみぐいリスナーを掘り起こすのに向いているのではないかと思います。ただし収録曲はAWAよりも随分と少ない印象を受けました。

Sportifyの進出もまだ噂レベルでは残っていますし、サブスクリプション型音楽サービスはこれから数年にかけて活況を呈するものと思われます。ただしその先で、音楽の新しいサービスとして定着するか、音楽業界を焼け野原にして去っていくのかは、各サービスがどこまで市場ニーズと収益性のバランスを取れるかにかかっています。一時的に流行ったけどビジネスとしてなりたたなかったよね…とならず、永続的に私たちの音楽体験を刺激してくれることを、一人のリスナーとして切に望むばかりです。