多くの採用サイトが間違っていると私が思う理由

企業にとって、採用サイトあるいは採用ページというのは、既に存在して当たり前のものになっています。Webサイトは本業のビジネスではなくむしろ採用に活用したい、というような声も多く聴きます。実際に私たちが受注する案件でも、採用サイトは少なくない割合を占めています。しかしこのように企業からの関心が非常に高い採用サイトでありながら、マーケティングの一部として作られるWebサイトと比べると、戦略性や考え方の点で大きく遅れをとっているようにも感じます。このエントリーでは、世の採用サイトに関して私が感じている問題点を少しまとめてみました。

採用サイトからの直接エントリーが増える条件

採用サイトを立ち上げる多くの企業は、自然検索からの採用サイトへの流入が増え、採用メディアや採用エージェントを挟まない直接エントリーが増えることへの期待を口にします。しかしその考えはいささか早計ではないでしょうか。

採用サイトのリニューアルや新規構築「だけ」で、直接エントリー数が増えるのは、メガバンクや大手商社や航空大手やNTTグループやトヨタなど、元々知名度も人気もある一部の企業だけでしょう。人気企業は「会社名+採用」でそれなりに検索されます。そこでランディングした訪問者に対して、新しくなった採用サイトで会社の魅力を上手に伝え、直接エントリーを増やすことは可能です。

しかしそれ以外の99%の企業は、採用サイトだけで直接エントリーは増えません。そもそも社名を知られていない会社は「社名+採用」などでは検索されません。社名は知られていても、就職人気企業ランキングのTOP100に入ってないような企業も条件はほぼ同じです。では、社名以外に「採用」と組み合わせて大量に求職者を集めることができるキーワードがあるでしょうか。多くの企業はそんな魔法の言葉を知りません。つまり、求職者を採用サイトへ流入させる経路を作るのは、サイト構築やリニューアルだけでは難しいのです。

例えば私たちの会社の採用サイトは「web制作会社+採用」で1位に表示されています。つまり、日本中に数多あるweb制作会社のどこかに就職したいと思い、そんな制作会社が用意している採用サイトをまずは見てみようと思った求職者には、真っ先に見てもらえる絶好のポジションにいるわけです。

そんな当社に対して、直接エントリーがどのくらいあると思いますか?

多い月で、せいぜい2~3件です。コンテンツの質やweb制作会社の人気とかそのキーワードでの検索ボリュームはいくつなのという別軸の議論はひとまず置いておくとして、企業名を含まない自然検索でのエントリー数なんてそんなものなのです。私たちのような10人前後の会社にはそれでも貴重でうれしいエントリーですが、正直このペースでは厳しいと思い採用メディアを使っています。私たちよりもっと大きな規模の会社ではとても満足できる数字ではないでしょう。また私たちと違って、検索で上位に送り込むことのできない制作会社では、月に2~3件どころか年に1~2件もない、ということがザラに起こっていたりします。

採用サイトに期待すべきこと

採用サイトで現実的に狙うべきは、単純な直接エントリー数ではありません。採用メディアや採用イベントといった、「採用サイトの外で行っている採用活動」の効果の最大化です。採用メディアは決められたフォーマットでしか掲載できないので、それ以上の豊富・詳細な情報を採用サイトに掲載し、採用サイトに誘導するURLを張り付けると、採用メディアでのエントリー数やエントリーの質が変わります。(ただし成果報酬型のメディアでは採用サイトへの誘導が許されていないのでこの効果はやや期待できません)

実際私たちの会社でも、採用サイトを公開した直後にとある採用メディアで募集をかけたところ、以前と同じ募集要項、同じ文面であるにも関わらず、エントリー数が倍以上に伸びました。時期による数の増減はありますが、この効果は今も続いています。また、以前は志望動機も何もないコピペエントリーが多かったのが、どこに興味を持ったのか、なぜ応募しようと思ったのかをきちんと書いてエントリーしてきてくれたり、面接までにしっかり企業研究をしてきてくれる人も明らかに増えました。つまりエントリーの質が変わったわけです。

また、合同説明会などの採用イベントでは、限られた時間内ですべてを伝えることができません。なので、説明会ではまず社名を知ってもらい、説明会では得られない詳細で濃密な情報を知る場として採用サイトに誘導するのです。もちろんこの場合は、採用サイトからの直接エントリーが増えると予想されますが、それは説明会というトリガーがあるからであって、採用サイト単体でエントリーが獲得できているわけではありません。試しにイベントへの出展を止めてしまうと、エントリー数も下がることでことしょう。

そもそも採用サイトの効果は、単なるエントリー獲得だけではありません。例えば、優秀な求職者は通常、複数の企業から内定をもらいます。その中から一社を選ぶときに、内定者は採用サイトに再訪問し、企業の「最終審査」を行います。一説には、採用サイトを一番熱心に見るタイミングはエントリー前ではなく内定後である、という話もあります。またこれ以外にも、面接の前後に採用サイトに訪問し、この企業の面接を受け続けるかジャッジするケースもあるでしょう。つまり直接エントリー数だけが採用サイトのKPIではないのです。

採用サイトの悲しい現状

このように考えていくと、採用サイトは、採用サイトの内側だけを見て綺麗に整えても意味がない、ということが分かるでしょう。まずは全体の採用戦略があり、どのようなタッチポイントで求職者と接触し、そこではどのようなコミュニケーションを取り、それらがあったうえで、採用サイトにどういう役割を与え、その役割を全うするためにどのようなコンテンツを配置するのか。マーケティングの世界では当たり前のように行っていることですが、採用においても考え方は全く同じです。このように採用戦略全体のプランとうまく連携していなければ、採用サイトがその会社の人事・採用戦略に貢献することは難しいでしょう。

しかしながら、あくまで私が知る範囲ですが、このような考え方で採用サイトを作っている企業や代理店、制作会社に出会ったことがありません。知ってる範囲の情報なので、この世に存在しないとまでは言い切りませんが、存在してもおそらくかなり少数なのだろうと感じます。

多くの人事担当者は、広告代理店やWeb制作会社を呼び寄せて、何か面白い採用サイトを企画できないかと打診します。それに対して、代理店や制作会社は、企業の想いや創業秘話、スター社員の武勇伝、競合よりも自信があることといったエモい話をヒアリングし、カッコいいキャッチを付けよう、綺麗な写真とコピーのインタビューで社員を魅力的に見せよう、インパクトのある映像を掲載しよう、といった採用サイトの内側に終始した提案をします。

人事担当者も、主観的な印象でそのアイデアをジャッジし、乗っかっていきます。そして公開し、満足します。マーケティングをまじめにやっている人は驚くかもしれませんが、私の実感としては、公開後の効果検証をきちんとしている会社は非常に少数です。2年前に訪問したとある上場企業は、毎年数千万円を自社の採用サイト関連に使っているのに、解析ツールには最低限のコンバージョン設定もビュー設定もしていませんでした。ただ、解析ツールのタグを貼っているだけでした。このように、前年度のサイトの数値的な振り返りもなく、公開したままほったらかしにして、翌年も思い付きで採用サイトを一新し、いつも通りの採用活動をしていたりする企業は、まだまだ多いのではないでしょうか。

もしかしたら、求職者や内定者から「とてもいい採用サイトでした」という声が来るから、問題なかった、これで良かった、と満足しているのかもしれません。私たちも採用サイトを手掛けた後に、人事のご担当者から「応募者からすごく好評でしたよ」という声を聴くこともあります。でも私たちは、そんな声はまったく参考にしていません。なぜなら、求職者と企業や人事部には上下関係があり、求職者が本音で話すわけないと思っているからです。企業や人事部に嫌われるのは絶対に避けたいので、本心は良かろうが悪かろうが、「良かったです」というに決まっています。あるいは何も言わないかです。「あんな採用サイトじゃ全然刺さりませんよ」などという応募者や内定者はいないでしょう。

だからちゃんと、数字と成果で検証すべきなのです。本当は入社して3年とか5年してはじめて、その時の採用戦略が良かったのかどうかが見えてくるので、採用サイトの「真の成果」を測るのはとても難しいこととは思います。しかし「今の自分たちが望む人を今年は何人採用できたか」という短期的な成果でもいいので、そのことと、Webサイトの訪問者数、エントリー数、エントリーからの採用率、採用メディアからWebサイトへの訪問数、採用メディアからのエントリー数、イベント開始日と直後の採用サイトへの訪問者数、エントリー率、影響を与えているコンテンツや行動動線などの相関関係をできるだけ紐解き、次年度以降の採用にフィードバックすべきです。しかし繰り返しますが、そんなことをしている会社に今まで出会ったことがありません。ゼロとは思いませんが、極めて少ないはずです。なぜかと言えば、おそらく広告代理店もWeb制作会社も、そういった視点での提案をしていない(できない)からでしょう。 

求職者をなめている採用サイト

時々、すごくテクニカルなアニメーションをしていたり、クイズやゲームのようなコンテンツを掲載していたりいる採用サイトを見かけたりします。だいたいは予算が潤沢な企業で、大企業の余裕というか、金持ちの道楽感が滲み出ていたりするのですが、一方で求職者を馬鹿にしているのかな、という印象も持ったりします。

私的な話しですが、私の大学卒業時は就職氷河期の真っ只中で、私自身の力不足もあって1年目の就職活動がまったくうまく行かず、就職浪人をしました。2年目の就職活動は後がないという思いがあり、会社選びも必死でした。社会人になっても2度転職していますが、その時もネットを駆使し、できる限りのその会社の生の情報にアクセスしようとしました。どこの企業サイト、採用サイトにも綺麗ごとしか書いてなかったので、「会社名+2ちゃんねる」でよく検索していました。もちろん、すべて真に受けることはしませんでしたが、一つの参考にはしました。時代は移り変わり、求職者の主な情報源も情報取得行動もあの頃とは変わっているかもしれませんが、自分の人生や直近の生活に確実に大きな影響を与える「会社選び」は、もっとも重大な関心事であり、真剣に情報を精査する心理は、今も昔も変わらないのではないでしょうか。

そんな心理の求職者に、道楽的なお遊びコンテンツやアパレルのような写真ばかりのカッコつけ採用サイトを見せることは、本当にベストな選択なのでしょうか。もちろん、そういったイメージを応募者側も期待していたり、あるいは実際の社風がそれとマッチしていれば、それでも構わないと思います。しかしそうでもない会社が、唐突に採用サイトでそのような表現をすることは、果たして良い効果を生むのでしょうか。

冒頭にあげた、人気企業TOP100にランクインする企業は別にそれでいいのです。採用サイトがどんな出来だろうが、採用しきれないくらい応募者が殺到するわけですから。しかし、知名度のない中小企業が似たような採用サイトを作るのは大変危険です。完全にお金の無駄遣いになってしまいます。

そもそも、求職者はそんなに馬鹿ではありません。社員インタビューは会社の検閲済で、綺麗ごとしか書いていません。企業理念もだいたい綺麗ごとで、その会社が良い会社かどうかの判断材料にできません。「失敗を恐れず挑戦する人材を求めている!」と熱く語った社長メッセージは、生存者バイアスのかかった勝ち組視点のメッセージでまったく共感できません。お仕事紹介には、現場で頻発するけど外には言えない都合の悪いことは一切書いていません。そんなことは求職者はすべて見抜いています。でも、仕事がないのは不安だから、できればその会社から内定がほしいから、ネガティブな批判はせず、「採用サイトを見てとても感銘を受けました」と言っているのではないでしょうか。

多くの求職者が一番知りたい情報は、給与や待遇と、ブラック企業でないかどうか、そして仕事のやりがいに直結するであろう現場の生々しい情報でしょう。しかしそういった肝心なことには一切触れず、何かをはぐらかすかのように、お花畑的キラキラメッセージで埋め尽くし、プロのカメラマンによるその社員の人生史上最高にカッコいい写真と、やたら動きまくるJSアニメーションでデコレートされていたりします。そういった表現が100%ダメと言っているわけではありません。私たちが採用サイトを作るときも、有用な範囲でそういった手法を用います。ただ勘違いしてはいけないと思うのは、多くの求職者が一番求めているのはそれではなく、力を入れるべきポイントもそれではない、ということです。 

現実とのせめぎあい

もちろん会社としても、無防備な情報開示はできません。現場で起こっているトラブルを公表しても、要らぬ不安を煽って応募者が減るだけです。「私たちは失敗の達人」というテーマで失敗事例を開けっぴろげに綴ったコンテンツを公開する会社がいたら、結構好感を抱かれそうな気もしますが、自分の会社でそれをやる勇気はやはり出てきません。「悪いことは書けない」という企業側の気持ちもよく分かります。

一方で、求職者もなかなか本心では話しをしません。採用の現場は、気を抜くとすぐに企業と求職者の本音を隠した建前ばかりの化かし合いになってしまいます。しかしそれでもなお、本当にほしい人を迎え入れたいのなら、可能な限り、求職者の本当のニーズに向き合ったリアルさを追求すべきではないかと思うわけです。

先ほどもいったように、人気企業ランキングの常連は何をしててもいいでしょう。確立している強固な企業ブランドと大企業ならではの安心感は、採用市場における最大の武器です。しかし、そういった人気企業のヒエラルキーに抗い、優秀な社員を獲得したいと願うのなら、建前ばかりの的外れなコンテンツと派手な演出でお茶を濁すのは得策ではありません。求職者の本心に切り込むような文章と職場の生々しさをリアルに伝える演出されていない写真や動画こそがキラーコンテンツです。

社長メッセージや企業理念を掲載するのなら、求職者と1対1で面と向かった時に優しく理解を促すような語り口調で書かれるべきでしょう。挑戦する人材がほしいなら、なぜそうなのかを肩ひじ張らず仕事の特性と絡めて丁寧に具体的に説明すべきでしょう。これらコンテンツを、普遍的で使いやすく読みやすいUIデザインの中に格納するのです。そしてこの採用サイトを含めた、採用戦略全体の最適化を図るべきなのです。

もちろん、各企業の採用の内情というのは外側からは見えない部分も多いでしょうし、各社それぞれで思惑や経験から培った成功法則があるのかもしれません。それでもなお、本エントリーのタイトルにあるように「多くの採用サイトが間違っている」と私が思ってしまうのは、上記で説明したような考えに照らし合わせた時に、「これ本当に求職者の気持ちを考えて作ってるの?」「これ求職者じゃなく経営層や人事部の顔色を見て作ってない?」と疑問に思う採用サイトが多いためです。