私たちの会社では長らく、画面設計といえばPowerPointを使い、ワイヤーフレーム(以下、WF)を作っていました。Web制作会社における非常にスタンダードなやり方であったため、ベターな方法と受け入れつつも、例えば以下のような無駄も多く、決してベストではないとも感じていました。
いずれも工夫次第で軽減できる問題でしたが、意思疎通のための中間成果物の体裁を整えるための多くの時間が無駄では?という疑問は常に頭の片隅にありました。そこで、アプリ界隈で勃発したプロトタイプで設計をする流れに乗っかり、1年半ほど前にWFの撤廃とHTMLプロトタイプへの移行を決めました。
今現在、WFを作ることはほとんどなくなり、HTMLプロトタイプがすっかり定着しました。こうなるまでに私たちが取り組んだことや移行して感じたことなどをここで共有したいと思います。
プロトタイプで設計をする場合、まずペーパープロタイプを作り、それから専用ツールでプロトタイプを作るという流れが一般的ではないでしょうか。ペーパープロトタイプを作るのは私たちも同じですが、実は専用ツールは特に使わず、テキストエディタなどを使い、ソースコードベタ書きでプロトタイプを作っています。非効率に思える方法を選択したのは主に以下のような理由からです。
最近はプロトタイプツールも多様化しており、すでに私たちの希望を満たすツールも存在しているかもしれませんが、1年半前の時点では、上記のような理由からソースコードベタ書きでプロトタイプを作るという選択になりました。とはいえ、毎回一からプロトタイプを作るのはさすがに効率が悪いため、基本テンプレートを用意してすぐに使えるようにしました。
このように数種類のレイアウトパターンのテンプレートが用意されています。
パーツごとにソースコードが用意されており、ソースのコピペでプロトタイプが作れるようになっています。
マルチデバイス対応されているので、スマホ用に(PC用に)わざわざ何かを作る必要はありません。
メモ機能があり、デザイナーやコーダーへの連絡事項があればページごとに書き込めるようになっています。
設計者はこのテンプレートを使って設計をします。以下は一番最近作ったプロトタイプですが、作る時間だけでいえば、だいたい30ページほどのプロトタイプを1日程度で作っています。(作る時間よりもその前に考える時間の方が長い)
ちなみにペーパープロトタイプもこんな感じの印刷用テンプレートを用意してて、印刷して使っています。
スマートフォン用のテンプレートと実際にスケッチしたサンプル
PC用のテンプレートと実際にスケッチしたサンプル
ペーパープロトタイプについては、私たちの場合はクライアントに見せる機会はほとんどありません。というのも、私たちは直請け案件が多く、大抵は担当者や意思決定者がWebに詳しくなく、ペーパープロトタイプを見せられてもどう判断していいかわからない、となりがちなためです。そのため、ペーパープロトタイプは主に社内での議論や意思疎通を目的に作っています。
ワイヤーフレームを捨ててHTMLプロトタイプに移行したことはメリットの方が多かったと感じています。具体的には以下のような点です。
一方で、HTMLプロトタイプも完全ではありませんでした。以下のような部分は、WFと大差ありませんでした。
Web制作の場合、プロトタイプ化によってクライアントの意思決定がよりスムーズになるのでは?という期待は大きいと思いますが、ペーパープロトタイプにしろ、HTMLプロトタイプにしろ、WFにしろ、未完成のものから完成品を想像するのは結構リテラシーが必要で、これができるクライアントは少なく、やはりビジュアルを見てから色々と気になってきて要望が来る、ということは非常に多いのが実情です。
そのため、WFをやめてプロトタイプにすることでビジュアルデザイン以降の差し戻しが減るんじゃないか、というのはあまり期待しない方がいいと思います。
Web制作でWFを捨ててHTMLプロトタイプにするときの一番の懸念は、いきなりHTML化してしまうと、修正や要望が出た時にWFよりも手間がかかるのでは、という点ではないでしょうか。結論からいうと、恐れることはまったくありませんでした。以下のようなことがその理由です。
というわけで、私たちの会社ではHTMLプロトタイプへの移行はメリットの方が圧倒的に多く、今後もWFは極力作らないつもりですが、今の私たちのやり方の最大の課題は、設計者にHTMLのスキルをそれなりに求める点でしょう。
たまたまHTMLが分かるメンバー構成だったから実現できましたが、HTMLは扱えないが設計業務はできるというメンバーが入社した際には、やり方を考えなくてはなりません。HTML自体は1か月もやれば習得できますが、PowerPointのWFと同じ速度で自在に思考し、オペレーションするにはもう少し時間がかかりそうな気もします。
ただこのあたりは、ツールで解決できるかな、とも思っています。先日AdobeからXDというプロトタイピングツールがリリースされたように、今後はプロトタイピングツールがますます多様化・充実してくることが予想されます。私たちもおそらくどこかの段階で、ツールを使うワークフローに移行するでしょう。そうなれば、HTMLを書けないといけないという私たちの問題は、自然に解決されるのではないかと思います。
というわけで、結論としてプロトタイプへの移行はおすすめです。WFを作っている制作会社の方々も、是非積極的にチャレンジしてみてください。