制作を進めているBtoB企業の採用サイトで簡易的なユーザーテストを実施した。被験者は、ベイジにインターンで来てくれている大学3年生で、新卒向けの採用サイトのターゲットとしては社内で一番ユーザーに近かったこともあり、学生ならではの現実的かつ意外性のある結果となった。
ベイジでは、プロジェクトの特性により実施の有無はあるものの、ユーザーテストをワークフローの中に組み込んでいる。ターゲットに近い属性の被験者に対して、事前にいくつかのシナリオを用意しておき、対象となるwebサイトを実際に触ってもらい、行動や発言内容を観察することで、問題点やユーザーの心理を抽出することを目的にしている。
ユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセン博士によると、「5人のユーザーでテストを実施すれば、課題の約85%は発見される。3人であれば約60-70%は発見される。」という調査結果もある。
ユーザーテストでは、「被験者」「記録者」「司会者」という3種類の役割に分かれてテストを実施することになるが、それぞれの役割は以下のようなものだ。
本来は、上記のように3人が役割分担をして実施するが、今回は私が司会者と記録者を兼務して、被験者となる学生にはざっくりとした概要だけを伝えた上で、リクナビから企業のことを知らない状態で採用サイトのトップページに訪問したという流れで実施をしてもらった。
発話の一部を抜粋すると、以下のような感じだ。
まず意外だったのは、トップページに訪問した後、「会社を知る」や「仕事を知る」といった主要な動線からのコンテンツを見ることなく、真っ先に「募集要項」を確認しにいったことだ。後から理由を聞いてみると、給与や勤務場所、募集職種などが端的に間違いなく分かるからということだった。確かに、最短で事実だけを知りたい場合、募集要項を見ることが手っ取り早い。
例えば、自分があるミュージシャンについて知りたいと思った場合、公式サイトではなくWikipediaを見にいくことが多いが、上記と同様に事実を端的に知りたいからだ。派手なモーションやいきなり動画が再生されるようなサイトも多いので、確認する優先順位としては低い。
学生は初めての就職活動で明確な判断基準がなく、メディアやサイトから受けるイメージで情緒的に流されやすいという一面もあるものの、採用サイトは企業が伝えたい情報が“盛られている”という意識を持っている。キラキラしたところだけを前面に打ち出して、給料や労働時間といった情報を、分かりにくい場所に格納すべきではないだろう。
その他にもユーザーテスト中の行動を見ていると、先輩社員のインタビューやオフィスで働く写真など、年齢が近い社員が気になっていることがわかる。ベテラン社員の華々しい実績よりも、「入社して数年の社員はどのような働き方をしているのか?」「キャリアプランの歩み方は?」「一日のスケジュールでは定時で帰れているのか?」などのように、自分が入社した後の近い将来の生活をイメージしてもらう必要がある。
当たり前だが、学生が就職活動を行う期間は長く、採用サイトに接触する機会は複数回に渡る。候補となる業界の知識を得るために活動しているプロセスであれば、業界の市場規模や将来性、業界の中でのポジションなどに興味を持つことが自然だ。
選考におけるプロセスであれば、採用選考の基準はどんなところにあるか、応募の条件や求める人物像、エントリー以降の具体的な流れが知りたいだろうし、内定を貰った後であれば、「本当にこの会社で大丈夫か?」「一緒に働きたいと思えるロールモデルはいるか?」といった点が気になるはずで、先輩の声やキャリアプランといったコンテンツがあった方がいいだろう。
採用サイトでのユーザーテストでは、このような学生の就職活動におけるプロセスに応じたシナリオを用意した上で、複数人の被験者を用意して実施した方がより現実的で具体的なアイデアが出てくることになる。
その他にも参考になった点は多々あり、後日のクライアントとのミーティングにおいて、ユーザーテストの結果を共有したところ、大変興味を持っていただいた。自分達のターゲットとなる学生からの生の意見に対して、聞く耳を持たないという企業はないだろう。
今回、ユーザーテストを実施した時間は30分程度であったが、短時間でありながらも得られたものが多かった。しかし、リニューアルのタイミングにおいてユーザーテストを数回実施するだけでは意味がない。抽出されたアイデアを元に改善を行い、採用サイトからのエントリー数や面接に来る学生の質など、客観的な数字や求める人材に対してマッチした採用ができたのかなどを評価して、次年度の採用活動にフィードバックしていく仕組みが必要だ。
ユーザーテストは効果的な手法ではあるが、実施することが目的にならないよう、アイデアをどのように反映していくのかという視点を忘れずに取り組んでいくようにしたい。