任天堂の元社長である、岩田聡さんの言葉や対談などをまとめた書籍『岩田さん(ほぼ日刊イトイ新聞)』のなかに、宮本茂さんのエピソードがいくつか出てくる。
宮本さんはマリオやゼルダの伝説シリーズの生みの親で、世界的に有名なゲームプロデューサーだ。無名時代から開発中のゲームを何も知らない人にいきなりやらせて、その様子を後ろから眺めていたらしい。それは「宮本さんの肩越しの視線」と呼ばれている。
一見遊んでいるようにも見える行動だが、この「肩越しの視線」は作る側の視点と遊ぶ人の視点のズレを短い時間で確認するという、モノづくりに欠かせない役割を担っていた。
実際に、宮本さんはこうして前提知識がない人にゲームをさせることで、「ここが分からないのか」「あそこに仕掛けがあったのに素通りしてしまった」などの気づきを得て、開発中のゲームを見直していたようだ。私たちが実施しているwebサイトや業務システムのユーザーテストと似ている。
どんなに見事なゲームを作り込んでも、遊ぶ人が楽しみ方を理解できなければ伝わらない。だから宮本さんは、自分がどんなに実績のあるゲームプロデューサーであろうと、「お客さんがわからなかったものは、自分が間違っている」というスタンスでゲームを作っていたらしい。この考え方はwebサイトを制作する人間としても持っておきたいものだ。
ゲームを購入した一人ひとりに対して細かい説明をすることは難しいように、webサイトに訪れた人全員に使い方を説明することはできない。
そのため、説明ありきで成り立たせるのではなくて、いきなりwebサイトにきても感覚的に自分が求めるものにたどり着けるような構造にしなくてはいけない。
本を読んでいて、この「肩越しの視線」という表現はとても分かりやすくてよいなと思った。それに、この方法は先入観がない状態でワイヤーフレームやHTMLモックアップを触ってもらうなど、社内でも気軽に試すことができる。
操作に迷っている点や、予期しない行動などを限られた時間で把握するのに、肩越しに眺めることはとても有効な方法ではないだろうか。
ベイジではユーザーテストをサービスとして取り入れてはいるが、すべてのプロジェクトで実施しているわけではなく、実施のタイミングや頻度にもバラつきはある。
社内でユーザーテストを取り入れ始めた当初には、プロジェクトに関与していないメンバーに声をかけて、このようなライトなテストをやっていこうと話していたものの、ここ最近は実施する頻度が以前より減ってしまっているので、意識的に実施をするようにしていきたい。
webサイトも制作者の自己満足に陥ることなく、実際の利用者がどのように感じるかを重視して品質を高めていくべきだろう。