「進捗は大丈夫ですか?」
「この方向性で大丈夫ですか?」
「体調は大丈夫ですか?」
会議で、プレゼンで、1on1で。仕事の様々な場面で、きっと多くの方がこの言葉を何気なく口にしているだろう。
一見するとシンプルな質問文の「大丈夫ですか?」。しかし「大丈夫ですか?」が的確なビジネスコミュニケーションを妨げている可能性に気づいた。
そもそも「大丈夫」とはどのような意味を持つのだろうか。
デジタル大辞泉では「まちがいがなくて確かなさま」という定義に加え、以下の補足説明をしている。
[補説]近年、形容動詞の「大丈夫」を、必要または不要、可または不可、諾または否の意で相手に問いかける、あるいは答える用法が増えている。「重そうですね、持ちましょうか」「いえ、大丈夫です(不要の意)」、「試着したいのですが大丈夫ですか」「はい、大丈夫です(可能、または承諾の意)」など。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
これを読む限りでは「大丈夫」という言葉は少々使い勝手がよすぎるのではないか。「必要または不要、可または不可、諾または否の意で相手に問いかける」って、一体どっちなの・・?
そう、「大丈夫ですか?」という言葉はとても曖昧なのだ。「大丈夫」が指すものが特定されていないため、尋ねられた側が何について答えればいいかわからず「大丈夫って・・・何が?」と戸惑ってしまうこともしばしばだ。
「大丈夫ですか?」はクローズドクエスチョンになっているので、原則的には「はい/いいえ」の二択の回答がある。しかし実際に「大丈夫ですか?」と聞かれると、「いいえ、大丈夫ではありません」と答えづらいのはなぜだろう。
とくに上司やクライアントなど相手との関係性が非対称である場合に、この心理的ハードルが高まるように感じる。「いいえ、大丈夫ではありません」と答えたら、評価が下がるのではないか、失望されるのではないかなど、不安がよぎってしまうのだ。
しかしなんらかの懸念があるのに、相手が「はい、大丈夫です」と答えざるを得ない状況を生んでしまうのはよろしくない。「大丈夫ですか?」という曖昧な問いで相手を追い込んでいないか、振り返ってみるべきだろう。
さらに「大丈夫ですか?」と曖昧に問いかけることによって、質問者側が責任の所在を不明確にしてしまっていないだろうか。「大丈夫ですか?」は「大丈夫かどうか」の判断を相手に委ねる質問になっているからだ。
たとえば具体的な指示やサポートが必要なときに「大丈夫ですか?」の曖昧な確認で終わってしまうと、いざ問題が発生した際に「あのとき大丈夫って言ったじゃん」と、責任が不当に相手に移ってしまうかもしれない。
それを避けるためには、「大丈夫ですか?」という雑な問いかけに逃げないことだ。とくに相手と経験値に差がある場合などには、「問題がないかどうか」を判断するための情報を自ら握るべきだろう。
そこで「大丈夫ですか?」をNGワードとし、対話で使わないことを自らに課してみたところ、自分がいかに「大丈夫ですか?」に頼っていたかを思い知らされた。1週間でざっと3回は「大丈夫で・・・いえ、〇△◇ですか?」と言い換えている始末だ。
言い換え例はこんな具合だ。
NG:「締め切りは大丈夫ですか?」
OK:「来週の締め切りに対して、現在の進捗度を教えてください」
NG:「この提案で大丈夫ですか?」
OK:「提案内容について、御社の意向とずれている部分はございますか?」
NG:「体調は大丈夫ですか?」
OK:「休みが取れていないようですが、業務の調整が必要ではないですか?」
具体的な問いへ変換できれば、「大丈夫ですか?」「・・っ、ハイ!」というすっきりしないやりとりを回避できる。
使い勝手の良さゆえに、ときには相槌やフィラーのようにも口にしてしまう「大丈夫ですか?」。双方にとって負担が少ないコミュニケーションを取るために、今後もより具体的に明確に、意味ある問いかけを投げるように心がけたい。