「弱みより強みが大事」の危うさ~パワプロ編~ 

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ライター 五ノ井 一平

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世に蔓延る強み信仰

「あなたの強みは何ですか?」

面接やマネジメント研修、1on1ミーティングなどなど、ビジネスのあらゆる場面でよく聞くフレーズだ。似たようなフレーズとして「強みを伸ばそう」「強みを活かしたい」なんてものもある。拒む・拒まざるに関わらず、私たちは得体のしれない強み信仰なるものに絡み取られているのかもしれない。

今回は、そんなビジネスでよく使われる「強み」について、野球ゲーム『パワフルプロ野球(以下、パワプロ)』と絡めて個人的見解を述べていきたい。
※なので、なにかしらのパワプロを履修してから以下をお読みください。

基礎能力と特殊能力

パワプロにおける選手の能力は大きく「基礎能力」と「特殊能力」の2つで構成される。下に貼り付けた画像で説明すると左側が基礎能力で、右側が特殊能力だ。

バッターで説明すると、【ミート】や【パワー】や【走力】といった項目が基礎能力に該当する。これらは野球をプレーするうえで基盤となるスキルであり、項目の値が高いほどその選手は優秀だとされる。

一方、特殊能力とは、【逆境○(試合終盤で負けているとき能力が上がる)】や【サヨナラ男(打てばサヨナラの場面で能力が上がる)】のようなものだ。ポジティブなものだけでなく、【チャンス×(チャンス時に能力が下がる)】【三振男(追い込まれると能力が下がる)】などのネガティブなものもある。

要するに基礎能力はすべてのベースとなる能力・スキルのことであり、特殊能力は特定の状況でのみ発揮される環境依存のスキルと説明できる。

出典:パワフルプロ野球2024-2025公式サイト

特殊能力ばかり欲しがって、ミートFでいいのか問題

ここからが本題だ。ぜひパワプロをやりながら読んで欲しい。

「あなたの強みはなんですか」
「私の強みは◯◯◯だから、それを活かしたい」
「もっと◯◯◯という強みを伸ばしたい」

このようにビジネス・個人能力の文脈で使われる「強み」は、パワプロでいう特殊能力に近い概念として扱われることが多いように感じている。

たとえば「◯◯◯なタイプの人と組めると強みを発揮しやすい」とか「◯◯◯な業務ではキラリと輝くモノがある」といった“強み”は、ある意味“特定の状況”でこそ最大に発揮されるという点で特殊能力と似ている。これは決して悪いことではなく、環境さえ合えば大きな武器になる。

一方でそんなに都合良く、個人の強みが発動される環境が常にあるかというと、残念だがそうではない。だからこそ、どんな環境下でも安定的に成果を出すにも、パワプロでいう【ミート】【パワー】といった基礎能力を地道に伸ばしておくことが重要だ

結局、パワプロでは基礎能力が高い選手ほど、特殊能力の恩恵も受けやすい。これはビジネスでも同じではないだろうか。

「弱みより強みが大事」の危うさ

「強みを活かそう」と似た主張として、しばしば「弱みよりも強み」という話が持ち上がる。X(旧Twitter)などでも「弱みは改善されないから強みを伸ばせばOK」という論調を目にすることがある。

しかし、本当に弱みを放置していいのだろうか? “特殊能力が少ない”ということ自体は、必ずしも弱みとは言えないが、“基礎能力が低い”のは明確に弱みになる可能性が高いのではないか。

たとえば「ミートとパワーが絶望的に低いまま、サヨナラ男や逆境○といった特殊能力だけを追い求める選手」を想像してほしい。確かに特定シチュエーションではワンチャン輝くかもしれないが、多くの打席では打率が上がらず、チームとしても使いづらい選手になってしまう。

これは普段の仕事においても同じだ。

いくら“目立つ強み”があったところで、基礎能力(コミュニケーション、読解力、ルール遵守など)が極端に欠けていれば、安定感のない働き方になってしまう。

どれだけ強み信仰が普及しようとも、多くのビジネス現場で評価されるのは毎日の打席で着実に成果を出せる人=いわゆる基礎能力が高い人なのだ。

強みは基礎能力の上に成り立つ

私自身、強み(特殊能力)を否定するつもりはまったくない。なんなら超欲しい。たとえば「フィードバック返し○(指摘された内容を秒速で改善する能力)」とか。

いずれにせよビジネスで自分らしく輝くには、独自の強みを見つけて磨くことも大切なのは間違いない。ただし、その前提として基礎能力が一定以上あるかどうかは見逃せない。

今後も自分ならではの強みを意識しつつ、環境に左右されにくい基礎能力を着実に伸ばしていく必要があるだろう。時には「自分は特殊能力ばかり欲しかっていないか?」を顧みたい。

というわけで、まずは何年もやっていないパワプロをプレイしたい。

おまけ~特殊能力ビジネス編~

せっかくなので特殊能力ビジネス編を創作した。

◯/◎/×タイプ(段階スキル系)

スキルの強さ・安定性・クセの有無を段階的に評価できるもの。「ある程度誰でも持ちうる」「伸ばす・鍛える・治す」概念がある能力とも言える。

能力名解説
返球○チャットやメールに秒で返してくる。
代打○急なアサインでも、状況を即キャッチアップしてちゃんと結果を出す人。
割り込み処理○「それ先にやった方がよさそう」の判断が速い。
逆境○「詰んだ」「ヤバい」が発生した瞬間に一番火力が出る。
ケガしにくさ◎体調を崩さない、病欠しない、有給も取らない。
裁き○無駄に長引く会議を強制的に終わらせる。
ツッコミ◎何かがおかしいが誰も言えないとき、鋭く指摘して場を整える。
見積り精度◯納期も工数もコストも、現実的なラインでピタリと当てる。
初回◯提案初回の入りがうますぎて期待値バグらせがち。
巻き込まれ力◯なんか気づいたら一緒にやらされてる人。大変だが本人は嬉しそう。
こだわり◯細部への美学と執念を持つ。“まあこれでいっか”がない。時間を犠牲にすることも。
ムード×本人に悪気はないけど、発言・態度で会議室の空気がピリつく。
確認×揚げ足を取ることが良いことだと思っている。

固有スキルタイプ(キャラ・個性系)

その人だけが持っていそうな個性・立ち回り・役割に寄ったスキル。成長性というより「この人っぽい」が際立つやつ。

能力名解説
勝ち運なぜかその人が関わる案件はうまくいく/成果が出る。
ささやき戦術独り言が多い。でも、その独り言がなぜかチームに効く。
切り込み隊長初回提案・初手アプローチ・クライアントへの第一打が異様に強い。
炎のストッパー炎上案件の沈静化能力が高い。冷静、沈着、でも気合いもある。
強心臓クライアントからの無茶振りや重めのフィードバックも涼しい顔で処理。
悲劇のエース優秀すぎるがゆえに周囲のメンバーが受け身になり、チームが崩れる危険もある。
名付け職人すべてのファイル名が秒でわかる。地味に神。
無言実行気づいたら誰にも何も言わず完成させてくる。報告は事後。
老練豊富なキャリアで盤石の立ち回り。いざとなったら頼れる存在。
初球専門初動は強いが、ブラッシュアップや運用に関心がない。
声量過多声のデカさとトーンでなんとなく正しく聞こえる。
ボール拾いボール(タスク)を拾いまくる。周囲は助かるが、どこかで止めないと爆発することも。
早合点相手に確認せず「きっとこう思ってるだろうな」で動く。
長文傾向要点がどこかわからないままSlackが5スクロール。
スロースターター着手まで時間がかかる。かかりすぎる。でも始まると速い。
早朝モード8:00にメール送ってくるタイプ。実は5:30起き。なお午後3時にはもう帰りたい。
納得病納得度が低いと作業ペース−50%、納得できると爆速
10分相談表向きはライトな相談風。最低30分かかる。

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