褒めるマネジメントの弊害

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代表取締役 枌谷 力

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「褒める」はマネジメントにおいて重要な行為である。という前提がある一方で、安直な「褒める」は人の才能を潰しかねないな、と思ったりもする。

例えば、能力値10の人は、能力値20の人に対しても、「素晴らしいです」と思うだろう。でもそれは所詮、能力値10~20の世界の話でもある。こういう褒めるコミュニケーションが蔓延するとどうなるのか。

能力値20の人でも、自信を持って仕事ができるようになる、というのは良い側面である。ただ、能力値20の人が自分の能力値を40~50くらいだと誤解すると、弊害が起きる。いざ仕事の中で能力値50を求められたときに、自己認識と現実の大きなギャップに苦しみだす。褒めるばかりのマネジメントの弊害はここにある。

当社のようなクライアントワークでは、社内評価だけでは仕事が成立しにくい。クライアントにはいろいろな基準を持った人がいて、求める能力値でいうと50~90くらいの幅がある。

なので、能力値20という認識がなく、自分の能力を過大評価していたら、実際の案件では歯が立たなかった、ということが起きる。だから褒める人は、求められる能力値の水準からの現在地をなるべく客観的に推し量ったうえで褒める必要がある。

例えば能力値20の人を褒めるのであれば、「この仕事を目指すのなら、本来は80までできているべきで、去年の今頃に比べると+10できるようになってて、成長しているね」とか。

良くないのは、「私が良いと思ったから褒める」「私の基準で素晴らしと思ったので褒める」という主観的な論拠しかなく褒める行為。これが有効に働くのは、実際の顧客から信頼を得るなど、実績がある人の時だけ。そうではない人の「私が良いと思ったから良い」と雑に褒める行為は、品質の水準が分からなくなるので、むしろ良くない。

以前受講したあるマネジメント研修では、「求められる品質水準が分からなくなるような”褒める”は、組織にとって害悪である」的な、かなりシビアな話があったが、よく分かる。

なお、起こった事実に対して褒めるのは、客観的な証拠があるので良いと思う。例えば、「クライアントが大絶賛していた」とか「150%の成果が出た」とか「手伝ってくれてすごく助かった」とか。

逆に要注意なのは、例えばジュニア同士で定性的な品質を褒め合う行為。こういう環境に囲まれていると、「周りのみんなは褒めてくれるのに、あの人だけは褒めてくれない」と、顧客が求める厳しい水準を理解している人に対する不満に向かう可能性もある。

私たちは、多かれ少なかれスペシャリストを目指している集団であり、人より知識・能力が高いことを良しとする価値観の世界に飛び込んでいるわけである。褒めるマネジメントは、そんな世界で人を成長させるのに大事な行為ではあるものの、使い方を誤ると、自己認識の歪みを起こしかねない。その点は、注意しないとな、と思ったりする。

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