実家に帰省していたときに、ウェブサービスについて父と母から尋ねられる場面があった。最近アクセシビリティに関する本を読んでいることもあり、実際に加齢による障害がユーザーエクスペリエンスにどのような影響を及ぼすのか、観察してみることにした。
ちなみに、私の両親はふたりとも70歳前後。地方に住んでおり、周囲の同年代の人々と比べるとPCやスマートフォンの使用には慣れている方で、毎日2時間以上はPCを使用している。その中で気になったポイントを3つ挙げてみたい。
まず、父の場合だが、使用している画面が27インチと大きいことも影響しているかもしれないが、ポップアップ表示には全く気付かない。彼の視線は常に画面の中央に固定されており、上部に表示される情報には注意を払わないようだ。
一方、母はその存在に気付くものの、その内容にはあまり興味を示さない。ポップアップを放っておいたり、ポップアップ以外をクリックすることで表示が消えるため、その情報が重要でないと判断しているようだ。また、エラー通知などのポップアップの場合、クリックすることで何かが起こる可能性に対して恐怖心を抱いており、触ろうとはしない。
この点を踏まえて、ポップアップ表示が必要な場合は以下2点を検討する必要がある。
次に、設定変更に関する課題だ。ここでは加齢による視力障害からくるユーザー課題を例に挙げる。
画面の文字の見えにくさに対して、最も手軽な解決策はテキストサイズを拡大することだ。これはOSの設定でも、ブラウザの設定でも対応することができる。
父と母の場合、ウェブブラウジング中に見にくさを感じても、見やすさを向上させるためにそれらを利用しようという発想に至らない。本人は設定変更で対応できることは知っているものの、見えにくさを受け入れることが多い。
設定変更については、複雑さやトラブルへの不安感から、既存の標準設定を変更することに消極的だ。そして、たとえ設定できたとしても、その使い方を覚えることを手間と感じる。彼らはメガネの調整など、PC機器を触る以外の方法で対応しようとする傾向がある。スクリーンリーダーなど支援技術の利用は候補にも挙がらない。
たまに、文字サイズを変更するボタンが用意されているウェブサイトもある。高齢者の設定変更に対する心理的負担・行動負担が大きいことや、設定画面を開かずに手軽に操作できる点からすると、このような機能はユーザーにとってとても親切なものだろう。
最後に、色の違いによる情報伝達に関する課題だ。
例えば、賃貸物件の検索結果など、条件やオプションの有無を色の濃淡で表現するデザインはよく見受けられる。しかし、これに対する理解は十分でないようだ。
父の場合、色でデザインに差があるものの、テキストが表示されているだけでオプション有りと誤認していた。色が異なることを認識してはいるものの、その意味を正しく理解することは難しいようだ。色覚異常の有無に関わらず、情報の伝達においては、色だけに頼らず、他の方法を併用することが大切だろう。
加齢による課題は、ユーザーの多様性を考慮したウェブデザインにおいて重要なポイントと言えるだろう。ウェブサービスがより多くの人々にとって利用しやすいものとなるためには、こういった課題への対応を検討することが欠かせない。