実際に使える案を30案出すために、AIで300案作った——。
そんな数字を、AIの活用事例を共有するデザイナー勉強会で聞いた。勉強会のテーマは「自然言語のプロンプトだけでデザインラフ案をうまく作る方法」で、すでに実案件でデザインラフ案をAIで大量につくっていた社内のライターをゲスト講師に招いて実施した。そこでは、普段デザインをしない立場だからこそ、見えている学びがいくつもあった。
共有されたコツは、大きく2点に整理できる。
細かい作法にこだわらず、とにかく量を出す。
情報源のファイル形式が必ずmdファイルでないといけないというルールはない。入力時の型式に厳密はさほど重要ではなく、とにかく試行回数を増やして、出力結果をもとに判断するほうに重きをおいていた。
実際に説明してくれたライターは案出しの9割を没にしたと話しており、裏を返せば、使いたい案数の10倍は出力する前提で回していたことになる。
良い案が出たらその理由をAIに分析させ、次のプロンプトに反映させる。
複雑な指示になり、伝わらなければ、自然言語でシンプルに伝え直す。ここでもスクリプトの形式にこだわるよりも、どの伝え方が要件の解像度を上げるかを見極めていく方が効く、という話だった。
この2点を実践するには、ディレクターとエディターを行き来する感覚が近いと感じた。量産フェーズでは全体を指揮し数多くの案を引き出し、選別フェーズでは審美眼を頼りに何を残し何を捨てるかを決めていく。この二役の切り替えが鍵になる。
印象的だったのは、ゲスト講師がAIを使い倒せた一番の要因が、デザイナーではないことにあった点だ。制作のプレッシャーや手癖がないからこそ、AIの出力にも遠慮なくダメ出しができ、量も回せるのだという。
ちょうどこの話を聞いて、週末に観た『プラダを着た悪魔』シリーズを思い出した。ゲスト講師のAIに対する振る舞いは、作中に登場する敏腕編集長・ミランダさながらだったと思う。これまでは、強いこだわりと審美眼をもって本当に良いものを引き出すという立場に立てるのは、長年の経験を積んだ一部の人に限られていた。AIという道具を得たことで、その引き出しは誰でも持てるものになりつつあるのかもしれない。
逆に、デザイナーがこのスタンスを取るときの最大の障害は、途中で自分の手で直したくなることだと思う。勉強会でも同様の意見が出たが、手が動くからこそ「もう出きったな」「これ以上はないな」と感覚で判断し、そのまま実作業に移ってしまう。結果として、AIにどこまで任せるかの見極めが鈍ってしまうのだ。
こうして学んだ内容を早速アクションに生かすため、ディレクターとして、自分の分身となるAIを動かすイメージで活用してみたい。次の機会には、初期の案出しで使える案を5案出すことを目標に、10倍の前提に従って50案出すまで出力を回し切る設計でトライする予定だ。