仕事において人とのコミュニケーションは避けて通れない。社内のメンバーはもちろん、時には顧客やパートナー企業などと会話したり議論したりする必要がある。
例えば「良いものを作ろう」という気持ちは同じでも、「良いもの」の定義や「良いもの」を作る手法など、最初から参加者全員の考え方が一つにまとまっているわけではない。また、コミュニケーションのスタイルも人それぞれなので、考えの伝え方や、言葉の受け取り方に違いもあるだろう。
そんな時、どんなコミュニケーションを目指せば、参加者全員が心地よく、生産的な議論ができるのだろうか。臨床心理士の平木典子さんの著書『アサーション入門』を参考に、円滑なコミュニケーションの基礎となる「アサーション」について少し紹介したい。
アメリカ心理学者のウォルピィは、人のコミュニケーションのスタイルは大きく分けて以下の3つがあると提唱している。
ぱっと見ただけでアサーティブなコミュニケーションがいいのだろうなと分かる。しかし、実生活の中ではノンアグレッシブ・アグレッシブなコミュニケーションを取ってしまう場面もあるのでは。先輩や上司に恐縮してノンアグレッシブになってしまう人もいれば、後輩や外注先とのコミュニケーションでアグレッシブな面が出てしまう人もいるのではないだろうか。(今のところベイジでアグレッシブなコミュニケーションを受けたことはないが…)
assertive(アサーティブ)を直訳すると、「はっきりと自己主張をする」という意味になる。ただし、一方的に自分の意見を押し付けるのではない。相手の意見にも耳を傾けながら、適切に自己主張をすることをアサーティブなコミュニケーション=「アサーション」という。
では、アサーションを実践するためにはどうすればいいのか。『アサーション入門』の中では3つの方法が紹介されていた。
嫌な体験や困りごとが起こった時には「どうするのか」よりも先に「自分はどうしたいのか」をはっきりさせる。「どうしたいのか」を一度考えたことによって、困惑や後悔、苛立ちを少なくできる。(参照:pp.131~138)
気持ちだけではなく、自分と相手が置かれている状況も伝える。共通基盤があることで納得感が生まれる。(参照:pp.138~142)
仕事など具体的な結論を出さなければいけないときは、気持ち・事実や状況に加えて、「どうするのか」の具体的提案をもとに交渉する。(参照:pp.142~146)
上記の流れに沿えば、適切な自己主張をするためにまず自分の主張を知り、相手を嫌な気持ちにせずに考えを伝えることができそうだ。
「アサーション」はもともとビジネスのために作られた考え方ではないが、ビジネスシーンでも大いに活躍しそうだ。
例えば、頼まれた仕事を断らなければいけないとき、なぜ断るのか事実と状況を共有した上で代替案を提案すれば、互いに嫌な気持ちにならずにコミュニケーションを取れるだろう。チームのメンバーにフィードバックをするときやフィードバックを受けるときも、上の流れを汲めば気持ちよく成果物のクオリティアップができそうだ。
相手を大切にしようとして自分の意見を二の次にする必要はないし、逆に自分の意見を通したいときに相手はこちらの言い分を聞き入れてくれるものだと思い込むのも間違いだ。アサーションを身につければ、柔軟かつ生産性の高いコミュニケーションが取れるのではないだろうか。
参考文献:平木典子『アサーション入門――自分も相手も大切にする自己表現法』講談社現代新書, 2012.