私は日々、社内の様々な提案書に目を通している。自分のプロジェクトでもそれらの知見を積極的に活用しているが、丸々コピーするのではなく、「この説明の仕方は分かりやすい」「このアプローチは新鮮だ」という点を抽出して自分の資料に取り入れている。
最近目にしたあるデザイナーの提案資料が特に印象的だった。デザインのバリエーションを横軸で整理することで、変化や違いが一目で分かるようになる表現技法を使っていたのだ。例えば、現状のデザインとその他のデザイン案を横軸で比較表現することで、「何が」「どのように」変わるのかや、表現の強さが直感的に伝わる。また、このデザイナーの資料は「現状の決定事項」と「今回決めるべきこと」を明確に区分けしており、議論の前提を共有するための構成も参考になった。特に複数の関係者が参加する打ち合わせでは、この「決定済み事項と検討事項の切り分け」が議論の効率を大きく向上させると感じた。
こうした他者の工夫を取り入れながら、自分自身も様々なアプローチを試している。その中で特に効果的だったのは、ビジュアルコンセプトを具体的な人格として表現する手法だ。これは抽象的なデザインコンセプトを「どんな人物像か」という形で具体化するもので、クライアントにとってイメージが掴みやすくなる利点がある。
例えば、「信頼感」「親しみやすさ」「革新性」といったキーワードから人物像を想定し、それをビジュアル表現に展開していく。「信頼感」を重視するなら「経験豊富なベテランアドバイザー」のような人物像を想定し、それに合った色彩やフォント、余白の使い方を提案する。同じキーワードでも複数の表現方向が生まれるため、クライアントに3つのパターンを提示すると、単なる好みではなく「求める印象」で選びやすくなることが多い。
社内システムのようなプロジェクトでは、コンセプトの幅を出すことは難しかったり、コストや納期の兼ね合いでビジュアルデザインの優先度を落としているケースも多くある。どちらかというと機能性や使いやすさが重視され、「見た目はおまけ」と思われがちだ。しかし、自社内でしか使用しない業務システムであっても、ビジュアルデザインは「美的ユーザビリティ効果」を生み出す重要な要素である。良いビジュアルは、システムへの心理的ハードルを下げ、直感的に「使いやすそう」と感じてもらう助けとなるからだ。
デザインの専門家ではないクライアントにとっても選びやすくなるように、判断材料となる情報の提供や、比較しやすい工夫を行うことが欠かせない。
前述のようにビジュアルコンセプトを人格化して提示するアプローチを試した結果、キーワード(印象)と色の接続がスムーズにいったり、案ごとの差分が分かりやすくなったりと効果を感じている。「デザインのことを言われても分からないよ」「好みになっちゃうよ」と言われることもあるが、判断できるための情報の出し方をするなど、クライアントの立場に立った提案方法は今後も意識していきたい。特に「なぜその選択肢が良いのか」という根拠を示すことで、単なる好みの問題ではなく、目的に対する最適解として判断してもらえるようになる。
何が言いたいかというと、たくさんの資料を見ると、各デザイナーの思考のインプットになって自案件をこなしているだけの何倍もの収穫があるのでお勧めだ。異なる視点や表現方法に触れることで、自分の思考も広がり、提案の幅も豊かになる。
他のデザイナーがクライアントの課題をどう捉え、どう解決策を提示しているかを学ぶことは、自分自身の引き出しを増やすことに直結する。それは単なる表面的なデザインテクニックではなく、問題解決のアプローチ方法そのものを学ぶことになる。ぜひ皆さんも、他者の資料から学ぶ習慣を取り入れてみてはどうだろうか。