多くの顧客をご支援するためには、業務を効率化し、再現性のある進め方を考え、根拠をもって提案することが欠かせない。
ただ、そのことばかり考えていると、いつの間にか「つくる側の論理」に寄ってしまうことがある。だから私は、「それは本当に顧客が納得するアウトプットになっているか」という問いを忘れないようにしている。
顧客に価値を感じてもらうためには、アウトプットそのものと対話の両方が欠かせない。理論的に正しいことを説明できても、「これがほしい」「良いものだ」と感じてもらえなければ、成果にはつながりにくいからだ。
プレゼンや説明の場面でも、「正しい理論で説明できること」と「相手が腹落ちして納得すること」は必ずしも一致しないとよく感じる。
私たちはつい、ロジックが通っていれば伝わるという前提で話してしまいがちだ。しかし顧客が意思決定するときには、理論だけでなく、感情や好み、組織事情、なんとなくの違和感といった言語化しづらい要素も大きく影響する。
だからこそ、「その説明で本当に納得してもらえるのか」を、もう一段考える必要がある。技術的な正しさだけでなく、情緒的な価値や期待感を伝えることも、時には重要になってくる。
顧客の言葉を「抽象的」「感覚的」だと受け止めてしまうことがある。でも、私たちは日頃からデザインやコンテンツを形にするために、感覚を言葉へ翻訳し、クリエーションへ落とし込むという意味での言語化に慣れている。そのため、無意識のうちに、相手にも同じような言葉で説明してもらうことを期待してしまっているのではないかと思う。
顧客にも、それぞれの専門分野で培ってきた知識や感覚がある。世の中には、感覚を起点に何十年も仕事をしてきた人も数多くいる。「ぴかっとしている」「なんとなく違う」という言葉も、その人が積み重ねてきたコミュニケーションの文化の中では、ごく自然に通じる表現なのだと思う。
私たちも、こうした技術を日々の仕事を通じて少しずつ磨いてきた。その前提を忘れず、顧客にも同じことを求めすぎないよう気を付けたい。
そもそも、週に1回程度のミーティングだけで、顧客が大切にしている価値観や、普段どのような言葉でコミュニケーションを取っているのかまで理解するのは簡単ではない。それは逆も同じで、顧客から見れば、制作会社が何を基準に判断し、どんな言葉で考えているのかは分かりづらいはずだ。
例えば「もっと明るいイメージで」と言われたとして、全体の明るさの話なのか、色味の話なのか、装飾の話なのか——理解するために必要な情報がまだ明確になっていないなら、こちらから聞きにいく必要がある。
顧客の言葉が足りないのではない。私たちがまだ、その会社ならではの言葉を理解できていないだけなのだと思う。顧客が好むものを見せてもらう、サービスを体験する、現場に足を運ぶ。そうした行動を通じて相手の感覚を自分たちの中にインストールしていくことも、ディレクションや提案の重要な仕事だと感じている。
もちろん、過去の成功パターンや業界の定石を参考にすることは大切だ。ただ、見すぎることで、無意識のうちにアウトプットが均質化していないかも気になるし、定石の中に答えを探そうとしすぎると、顧客が本当に実現したいものが、その枠の外にある可能性を見落としてしまうかもしれない。
だからこそ、「業界ではこうだから」ではなく、その会社だからこその表現を考えたい。ビジュアルはもっと楽しくてもいいのではないか、コンテンツは詳しく書くだけで十分なのか。本当に顧客に刺さるものは何かを、もっと考えていきたい。
気を付けたいのは、こうした「つくる側の論理」は、社内でアウトプットを振り返るときにも起こり得ることだ。「短期間で仕上げられた」「これだけ工数をかけた」といった、つくる側のプロセスだけで満足していないか、意識しておきたい。それは顧客には直接関係のないことだ。
本当に大切なのは、顧客自身が「これが私たちらしい」と感じ、「わ、これこれ」「すてきだな」と思えるアウトプットを届けられているかどうかだと思う。
効率や再現性を追求しながらも、最後は「顧客が心から納得するか」「感情が動くか」という視点を忘れずにいたい。