先日、SaaS Designers Meetupというイベントに参加した。今後ベイジでも業務アプリケーションやSaaSに力を入れていく方針であるのと、純粋にBtoBのデザイナーのお話を聞いてみたいと思い参加した。採用、教育、医療、物流分野のBtoB領域のお話を聞くことができ、とても有意義な時間だった。どの会社も事業会社だったのでベイジとは特性は少し異なるが、参考になりそうな点を今回の学びとしてまとめたいと思う。
株式会社Shippio 松川さんのお話。Shippioは輸出入代行サービスを展開する物流業界のスタートアップ企業。
株式会社Shippio
松川さん自身、物流業界は全くの未経験だったそうだ。未経験領域の分野をデザインするにあたっては、その領域の知識の解像度をいかに上げるかがポイントとなる。具体的に未経験領域の知識の解像度をしようと思った時に以下のようなことを行う。
●関連書籍を5~10冊読む
これくらい読むと同じようなことが書いてあったりして理解が進んでくる。何かを学ぼうと考えたときに、関連書籍をこのくらい読めばなんとなく理解ができそうだと感じた。
●基本的な用語の理解をする
相手が専門用語を使って話して着た場合用語がわからないとそもそも理解ができない。相手の話の内容の理解をするためにも基本的な用語くらいは理解しておく必要がある。
Shippioは物流業界のサービスを展開する会社であるので、実際にフォワーディング代行会社に1日常駐してみてフォワーディング業務を観察したり、業務風景を動画で撮影したりして現場で働くユーザーの行動を観察する。また、通関書類を実際に作成してみたりして実業務を体験、実業務の煩わしいポイントなどを自分たち自身で体験するそうだ。
※フォワーディング業務・・・預かった貨物を希望の場所へ届けるための手配業務のこと
書籍や現場で得た知識だけでは足りないため、自分自身で情報を収集するために動くことも大切だと松川さんはおっしゃっていた。SNSを駆使してアンケートを実施したり、関連業界に勤めている人を探したり、実際に投資家のミーティングに参加してみるなどして生の情報を仕入れに行くそうだ。
「ユーザー目線」、「ユーザー理解」と言葉でいうのは容易いが、本当に理解しようと思うとこれくらい能動的に動かなければ生の情報は手に入らないということを教わった。わたしも実際にクライアントのミーティングに同席することはあるが、まだまだ相手のことを理解するために前のめりになる必要があると感じた。
Ubie株式会社 三橋さんのお話。UbieはAI問診のサービスを展開しているスタートアップ企業。
医療の現場では特に老若男女がユーザーになりうるため、特に高齢の方が使いやすいUIについて意識している。そういったときに参考にしたのは、すでに世の中に広く広まっている物のUIやメタファー。カラオケのデンモクやトイレのウォシュレットの水勢ボタンなど高齢の方でも普段の生活で目にするものを参考にしたそうだ。
webサービスのデザインを考える際にweb上で参考となるUIを探しがちだが、特にユーザーのITリテラシーが低かったりするような場合に日常のUIを参考にするという視点は、新しい発見と学びだった。
株式会社グッドパッチ 石井さんのお話。グッドパッチで担当したリンクアンドモチベーション社の「モチベーションクラウド」というサービスの設計とデザインのお話をしてくださった。
モチベーションクラウドは、組織状態を定量化・可視化し、改善を支援するサービス。「すべての組織」という広い領域・多様なITリテラシーの方の利用が想定されるため、UIの設計思想をソリューションベースから事業領域ベースにシフトさせる必要がある。様々なリテラシーのユーザーに対してどう対処するのか、といったときにアラン・クーパーのAbout Face3という書籍のこの言葉をベースに設計を行ったそうだ。
ほとんどのユーザーは、初心者でも上級者でもない。彼らは中級者なのである。
初心者に留まりたい人はいない。
About Face 3 インタラクションデザインの極意
初心者は早い段階で中級者になろうとする。なれなかったら場合は離脱する。また、上級者は使わない期間を経て中級者になるためボリュームゾーンである中級者に合わせてデザインをするという考え方で、わかりやすさ(初心者)より使いやすさ(中級者)、作業効率より学習効率(習熟効率)を優先させ、「習熟をどれだけ早くできるか」という点を意識したそうだ。
デザインをするときにすべての人にわかりやすいようにと初級者に合わせてデザインを考えしまいがちだが、かえってわかりづらく使いづらくなる場合がある。何にでも注釈をつけすぎてしまったり、1機能にしか使わないボタンを設置してしまったりなど。実際にそのサービスを利用するユーザーの特性、リテラシーのボリュームゾーンはどこにあるのかをよく検討する必要があることを知ることができた。
BtoBの事業は法律や慣習など制約が多い。その制約の中でユーザー体験を最大限にするためにはどうしたらよいのか?をものすごく検討されていることがお話の中からうかがい知ることができた。事業の理解をより深めるために資格を取ってしまったり、ソフトウェアに完結せずソフト・ハード両面でユーザー体験を設計しているというお話を聞き、その熱量の高さにとても尊敬した。
わたしたち受託のデザイナーは限られた時間と納期の中でどこまでクライアントのことを理解できるのだろう。わたしたちの手が離れた後のアウトプットたちは本当にユーザーのためになっているのか。さまざまなことを考えさせられた会だった。
この記事を書くにあたり、以下のイベントレポートを参考にさせていただいた。こちらの記事もとてもまとまっていて読みやすいので、ぜひ読んでみてほしい。
(前半)SaaS Designers Meetup vol.1 – レガシー産業で挑戦するスタートアップたち
(後半)SaaS Designers Meetup vol.1 – レガシー産業で挑戦するスタートアップたち